第五章 決戦! 第十三話
「すっかり総司令官らしい顔になったわね。ヒーリー。わたしの教育の賜物かしら?」
会議が終わり、メアリは馬車に戻ったヒーリーに言った。
「そうだね。週一回の昼寝しか許してくれない参謀長のおかげかな」
ヒーリーはどこか皮肉めいた笑みをメアリに向けた。
「ところで、さっきの進路変更。あのことと関係があるの?」
メアリは核心となる質問をヒーリーにぶつけた。ヒーリーは頷くと、一通の書類をメアリに手渡した。
「これは……ミュセドーラス平野の作戦図。それに、これ……」
驚くメアリに、ヒーリーは馬車の椅子にもたれて言った。
「さすが、メルキド最高の知勇を誇るタワリッシ大将軍。向こうも考えていることは同じってことさ。大将軍は一刻も早い合流を要請している。メルキド軍の人足だけでは足りないということだろう」
「だから、進路変更をしたのね。でも、それだけじゃないでしょう?」
「あぁ、作戦図に穴を見つけたんでね。それを埋めにいくのさ」
メアリの問いにヒーリーは不敵に笑った。以前のヒーリーとは何かが違う。メアリは小さな不安を感じ始めた。
「ヒーリー、あなた……」
「あー! 今日は考えるのはやめだ、やめ! メアリ、君も休んでくれ。明日も大変な一日になるんだからな」
「はい。軍団長」
メアリはそう言うと、ヒーリー専用の馬車を出て行った。メアリを見送ったヒーリーは馬車の屋根に上ると、てっぺんに腰掛けた。メルキドの月を眺め、ヒーリーはいつになく険しい顔をしてつぶやいた。