第五章 決戦! 第十一話
「なんじゃ、お前か」
「この度の最後衛の任に不満の議があってまかりこしました」
「そのことか」
グレゴールはため息をついた。老練沈着な第四軍団にあってベルハルトは唯一とも言える猛将であった。優れた龍騎兵であり、指揮官でもある彼はその能力に比例して功名心も強く、全十二軍団最大の兵力を持ちながら最後衛にある現在の第四軍団の現状に不満を抱いていた。
「我が軍団は現在、第五軍団残余も合わせ、全十二軍団中最大の兵力を誇ります。それなのに、なぜ、後衛に甘んじているのですか!?」
「それ故じゃよ。敵軍の背後を狙うは常道。退路を経たれれば、我々は敵中に孤立し、そのことごとくがメルキドの大地に屍をさらすことになるであろう。故に強大な軍団が背後を守ることが必要なのじゃ」
「それならば、第二、第三軍団があたれば良いではありませんか!?」
「第二、第三軍団ともに我が軍の柱石、どちらも中軍、先陣には外せぬ」
「しかし!」
「聞き分けのないがきじゃのぅ」
グレゴールはザビーネとジギスムントを昏倒させた殺気を放った。ベルハルトはその重圧に耐えきれず、玉の汗を吹きながら地に伏した。
「貴様のようながきが戦のなんたるかを語るにはまだ、早いわ。しばらくそこで頭を冷やしておれ」
グレゴールは失神したベルハルトを馬上から見下ろすと、吐き捨てるように言った。星王暦2183年6月30日、ワイバニア軍10万は公都ロークラインに向け進軍した。