第五章 決戦! 第七話
「はっくしゅ!……誰か、私の噂でもしているのかしら? 大方、ヒーリーでしょうけれど」
ヴェローナの港に上陸を果たしたフォレスタル軍は直ちに兵士の上陸と物資の荷揚げを行なっていた。
四〇〇〇〇人分の物資の荷揚げを行なうのは容易ではなく、二日はかかるとメアリら増援軍首脳部は試算していた。
「ヒーリーの奴、まだ帰ってこないのか? もしかして、メルキドのお姫様と仲良く……」
何もない空間を抱き、口を尖らせてキスのまねごとをするレイをメアリは殴り飛ばした。
「そんな訳ないでしょ! ほら、人手が足りないんだから、あなたも働きなさい!」
「いってぇな……。だから、二六にもなって男の一人もできないんだ……」
「何か言った?」
「い、いえ! なんでもありません!」
レイは後ずさりすると、殺気をみなぎらせて眼鏡を上げた参謀長から逃げるように船に戻っていった。
「やれやれ、こりゃ結構時間がかかりそうだねぇ」
「エリザベス!」
メアリの隣に立ったベスは兵士や人足が忙しく行き来する船を見上げると、キセルを一服吹かした。
「あたしらも一緒に行くよ。あんたたちのケツと口、きっちり守ってやるから心配しなさんな」
「ありがとう。エリザベス……。ついでに言葉遣いも直さない? 一応、女の子なんだし」
メアリの言葉にベスは一瞬面食らった表情をすると、大口をあけて笑い出した。
「あはははは! あたしが女の子だって? 違いないねぇ! あはははは」
「本気よ! 私は!」
「生憎と男に囲まれて暮らして来たからねぇ。そうそう簡単には直せないよ。それより、ヒーリーに料理の一つでも、ごちそうしてやるんだね。好きなんだろ? あいつのこと」
軍団の中の誰かがいたら、卒倒していたかもしれない。冷静無比の参謀長が顔を真っ赤にしていたのだから。
「まぁ、あいつにゃ、好きな子はいるみたいだけどねぇ。あたしが言うのもなんだけど、女は度胸だよ! せいぜい頑張りな」
ベスはキセルをくわえながら言うと、手をひらひらさせて船に戻っていった。