第一章 オセロー平原の戦い 第十七話
間断なく落とされる岩を前に、フォレスタル軍の隊列は至る所で寸断され、もはや陣形として機能出来る状態ではなかった。そこに先ほどの復讐に燃えるワイバニア兵達が襲いかかった。ハーヴェイは敵の落石攻撃に耐えながら、損害を最小に抑えることにつとめた。彼は落石の狙いが予想したほど高精度ではないと悟ると、直ちに兵を分隊単位で散開させた。規則正しい隊列を整えたワイバニア兵にとって、散開して後退するフォレスタル第二軍団はさながら雲のようであっただろう。フォレスタル軍は文字通り蜘蛛の子をちらすように後退した。アンジェラはその後退の狡猾さにいらだちを覚えたが、上空に待機中の龍騎兵隊に追撃戦を命じた。
ワイバニアの代名詞、空の王者とも言える龍騎兵はたちまちフォレスタル軍に追いつくと急降下による突進を繰り返した。隊列の整わない集団には龍騎兵は荷が勝ちすぎる相手であり、一人また一人と翼竜の牙に身を引き裂かれて倒れていった。ハーヴェイは後退する中で敗北とその死を覚悟したが、天を覆う翡翠色の旗印を見たとき、ハーヴェイの目が再び輝きを取り戻した。
アレックス・スチュアート率いる国王直属龍騎兵隊が駆けつけたのだった。ワイバニア龍騎兵が精強であるとはいえ、絶好とも言えるタイミングでの龍騎兵の来援はワイバニア軍を驚かせるに十分であった。一瞬の虚をついたフォレスタル龍騎兵がワイバニア龍騎兵に襲いかかった。
「まさか、殿下のおっしゃる通りになるとはな」
一瞬のうちにワイバニア龍騎兵を一人倒したアレックスが言った。戦いに先立って、アレックス率いる龍騎兵隊にはヒーリーからいくつか命令が出されていた。
「スチュアート隊長達はまず戦場を大きく迂回してもらう。第二軍団が布陣しているテンペスト湖は地の利がある分こちらには有利だが、戦いになった場合は必ず野戦になる。そうなっては龍騎兵を持たない第二軍団は不利だ。そこで龍騎兵大隊はまず、テンペスト湖の上空に一時とどまり、敵龍騎兵を牽制して欲しい。そして必要であれば第二軍団を援護するんだ」
戦況は半ばヒーリーの予測通りになっていた。ただ、唯一の誤算は第二軍団が思わぬ苦境に立たされていたということだった。アレックスはその原因を発見するとすぐに部下に命令した。
「全騎。あのデカブツを片付けるぞ。格闘戦を挑むな。一撃離脱戦法で仕留めるんだ」
アレックス率いる龍騎兵大隊一〇〇〇名は他には目もくれず、落石攻撃を行っている大型翼竜に襲いかかった。
「いやぁぁぁっ!」
アレックスは裂帛の気合いをこめ、翼竜の急所めがけて槍を突き立てた。大型翼竜は数も少なく、動きも鈍重であったため、護衛の龍騎兵共々、フォレスタル龍騎兵にことごとく落とされていった。アレックスらは大型翼竜隊をさしたる損害もないまま壊滅させると、フォレスタル第二軍団前方に展開した。