第五章 決戦! 第四話
「何だって?」
「河上とは言え、上空警戒は必要です。龍騎兵大隊を預かるものとして、ここを離れる訳には参りません」
アレックスの言は正論ではあったが、言行が一致している訳ではなかった。質実剛健なアレックスの口元がわずかに緩んでいるのをヒーリーは見逃さなかった。恐らく彼なりに気を遣っているのだろう。ヒーリーにしてみれば、大きなお世話であったが、イスラを思うと、説明する気も失せ、隣のアンジェラに救いを求めた。
「アンジェラ殿。彼女を……」
「申し訳ありませんが、わたしは騎兵の出身、翼竜の扱いはいささか不得手で……」
ヒーリーの頼みをにべもなく断ると、アンジェラは向こうを向いた。
そんなはずはない。出撃に先駆けてアンジェラと訓練飛行をした時は、龍騎兵が舌を巻くほどの卓越した騎乗技術を見せつけていた。きっと彼女はヒーリーの見ていない方で舌を出しているに違いない。ヒーリーは僚友を恨んだ。
「仕方ないな……。ヴェル!」
ヒーリーの声にアテナと愛を確かめあっていた愛騎はびくっと顔を上げた。
「イスラとアテナをメルキドまで送るぞ」
ヴェルはヒーリーの言葉に嬉しそうにうなづいた。ヒーリーとイスラはそれぞれの愛騎にまたがると、空へと舞い上がった。
「メアリ。ヴェローナで合流しよう! それまで、軍団の指揮は君とピット爺に任せる!」
「わかりました! 軍団長!」
次第に小さくなっていくヒーリーにメアリは声を限りに叫んだ。空を翔る二人は二、三回船の上を旋回するとメルキド方面へ飛んでいった。