第四章 決戦前夜 第六十三話
「これは……”捕獲”の護符? ……おのれ、老いぼれが……」
シモーヌは後ろで杖を構えたリードマンを見た。光の円から無数の光の縄が生え、シモーヌに絡み付くと身体の自由を奪った。
「失敬じゃな。わしはまだまだ若いぞ。マクベス!」
「はい!」
シモーヌを倒すべく、マクベスは駆け出したが、二人の意図しなかった事態が生じた。足の方からシモーヌの身体が消え始めたのだ。
「今日のところは引き上げてあげる。ラグエル、今度会う時はあなたはわたしのもの……。愛してるわ。ラグエル」
腹の傷を押さえたラグを見下ろしながら、シモーヌは姿を消した。マクベスとリードマンは怪我を負った親友の元に駆け寄った。
「大丈夫かい? ラグ」
「あぁ……マクベス。大丈夫だ……。急所は、外れているから……」
力なく微笑んだラグだったが、腹からは止めどなく血が流れ続けていた。
「このままだと危険じゃ。早く医者の元へ……」
「お師匠様? いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
リードマンの声を大きな物音がさえぎった。材料の買い付けに出かけていた助手のメルが顔を青ざめさせていた。幼いラグ唯一の弟子は泣き叫びながら師匠のもとに駆け寄った。
「お師匠様! あぁ、なんてこと。お師匠様?」
「メル。少し落ち着きなさい」
マクベスは取り乱すメルの肩を抱き、気持ちを落ち着かせた。
「マクベス様……」
「そうだよ……メル」
「お師匠様? 」
師匠の声を聞いたメルは少しだけ平静を取り戻したようだった。
「僕に”治癒”の護符を……」
メルは頷くと、ラボの奥の方へ入っていった。治療の護符を手に戻って来たメルは、ラグの傷口に護符をあてて、手当を開始した。
「大丈夫かの? メル……」
「はい。傷口を塞いで、消毒と解毒を行なっています。ですが、回復までには時間が……」
悲しそうな目で、メルはラグを見つめた。
「たくさんの血を失ったからね。それだけは自分で作らなきゃならないのさ」
「ラグ!」
「だめです。お師匠様、しゃべっては!」
「わかったよ……メル。少し、休むとしよう……」
そう言うと、ラグは目を閉じて、長い眠りについた。
「お師匠様の身体に施された自己修復機能が働き始めたようです。一ヶ月ほど目覚めることはないでしょう」
「一ヶ月か……。長いな」
マクベスは腕を組んだ。ラグが眠りについたひと月の間、世界はめまぐるしく変わっていくだろう。ワイバニアとの決戦、シモーヌとの確執。全てがラグの目覚めたときには終わっているはずだ。自分たちの未来はどのようになっているか、マクベスは思いを馳せずにはいられなかった。
星王暦二一八三年七月、後に”嵐の七月”呼ばれる月はこうして始まった。
第四章 最終話です。
次回から、ついにヒーリー達がメルキド本土に到着!!
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