第四章 決戦前夜 第六十二話
「んぅ!?……ん……ふぁっ……!」
シモーヌは舌をラグの舌に絡めた。恋人同士の長い長い口づけ。シモーヌはラグの中をいとおしむように動き回った。全てを吸い付くすかと思うと、お互いの唾液を絡めあった。
「はぁ……」
一心不乱にラグを求めていたシモーヌは腰から隠し持っていたナイフを抜いた。
「あなたはわたしのものよ……ラグエル」
唇を離し、妖艶な笑みを浮かべたシモーヌはラグの腹にナイフを突き刺した。
「ぐっ!? あぁぁぁぁぁぁっ!」
「愛しているわ。ラグエル。あなたの血も、その身体も全てわたしのもの……」
「違う! 僕は……あぁっ!」
血を吐きながらラグはシモーヌの言葉を否定した。腹からは血が止めどなく流れ、血だまりをつくり始めていた。
「ふふ……きれいよ……ラグエル」
「サマエル……!」
そのとき、二人の間を翡翠色の閃光が引き裂いた。二人を引き裂いた影はラグを背にナイフを構えると穏やかに言った。
「ノックもせずに失礼するよ。ラグ」
「マク……ベス?」
「マクベス・エル・フォレスタル……」
愛するものとの蜜月のときを邪魔されたシモーヌは呪詛のまなざしをマクベスに向けた。
「あなたが、ワイバニア右元帥、シモーヌ・ド・ビフレストですか? わたしの親友に怪我を負わせるとは、感心出来る真似とは言えませんね……」
ナイフをシモーヌに向けて、マクベスはシモーヌに言った。表面上は平静を装ってはいたが、内面は怒りで荒れ狂っていた。
「うふっ! あはははは! あなた一人でわたしに立ち向かうとでも? ちょうどいいわ。ラグエル。あなたの大切なものが死ぬ様を見ていなさい」
「待て……サマエル!」
「やれやれ……年寄りを置いていくとは、何とも薄情な生徒を持ったものじゃ……」
シモーヌの背後で老人の声がした。シモーヌが声の方向へ振り向こうとしたとき、光の円が彼女の足下に出現した。
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