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第四章 決戦前夜 第六十話

「ふぅ……」


人気のなくなった執務室で、マクベスは大きく息を吐いた。兄として、フォレスタル王国宰相として、命がけで戦う弟を何とかして助けたいと考えていたマクベスだったが、現実はあまりにも厳しすぎた。兄としての思いと、宰相としての立場。マクベスはこの二つの間で揺れに揺れていた。


「ヒーリー……。君のことをあまり助けてやれないかもしれないな……」


そのとき、執務室の扉をノックする音が聞こえた。マクベスが入るように促すと、扉を開けて、矍鑠とした老人が入って来た。王室政務顧問ロバート・リードマンである。


「どうした? ずいぶん浮かない顔じゃのう? マクベス」


「えぇ、無力な兄で、ヒーリーに申し訳が立たないと思っていたところです」


リードマンの遠慮のない言葉にマクベスは苦笑した。二人きりになると、リードマンはマクベスに遠慮がない。それはかつて、マクベスがリードマンの元で政治、経済を学んでいたからであり、現在も師弟関係が続いていた。マクベスは時間を見つけてはシンベリン市内にある王立大学のリードマンの研究室を訪れていたし、リードマンもまた、週一度の参内の折りには必ずマクベスのもとに訪れていた。


「そんなことはない。お前は十分すぎるほど、弟のために働いておる。だからこそ、いつもお前を頼りにしているのだろうて」


リードマンはマクベスを諭した。マクベスは恩師の言葉に少しだけ肩が軽くなった気がした。


「さて、今日はラグの奴とチェスをする予定でな。お前も一緒に来んか? 実は妙手を思いついての……」


「お供します。リードマン教授」


年甲斐もなく目を輝かせて話す師を見て、マクベスは微笑んだ。仕事はたまっているが、たまには息抜きも必要だ。マクベスは嬉しそうに扉を開けるリードマンの後ろをついていった。

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