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第四章 決戦前夜 第五十八話

「ふぅ。できた。ヴィクター君、よく似合っているわよ」


「なんてことするんですかぁ? ベティーナさん……」


床に手をつけ、ヴィクターは大粒の涙をこぼした。痛ましい。痛ましいが、ここでベティーナに文句を付ければ、自分たちもどんなとばっちりを受けるかわからない。第三軍団長とその副官は、ヴィクターに同情しながらも、目の前の光景から目をそらし続けていた。


「いい? ヴィクター君。次にだれか入って来たら『お帰りなさいませ。ご主人様』って言うのよ。こうやってね」


ベティーナはヴィクターにメイドらしい仕草を伝授した。ヴィクターは泣きながらベティーナの講義を受けた。


「なんでこんなことするんですかぁ……?」


「決まってるじゃない! 面白いからよ」


涙でぐしゃぐしゃになったヴィクターにベティーナはのけぞるくらい胸をはって言った。もう、誰もこの人には逆らえない。ヴィクターは観念してベティーナの言うことを聞くことにした。


時を経ずして、シラーの執務室にノックの音が響いた。


「ほら、ヴィクター君。やってやって!」


「お、お帰りなさいませ! ご主人様」


ベティーナに教えられた通りにヴィクターは動いた。一体誰がシラーの客だったのだろう。ヴィクターは恐る恐る顔をあげた。すると、驚愕のあまりヴィクターは目を見開いた。ヴィクタ−の眼前には、第十二軍団参謀長のローレンツ・フルトヴェングラーと第十二軍団龍騎兵大隊長のコンラート・フォン・シュレヒトが立っていた。二人は数秒の間、口をぽかんと空けていたが、その後正反対の表情を浮かべていた。ローレンツは苦虫をかみつぶした表情で眉間に人差し指をあて、コンラートは腹を抱えて大笑いした。


「はははははは! 何やってんだ、ヴィクター! こんな可愛い格好なんかしちゃってよ。よく似合ってるぜ!」


「コンラートさん……」


「ワイエルシュトラス君! 君かね! こんなことをしたのは?」


ローレンツはこそこそ隠れようとするベティーナを見つけると、ずかずかと大股で近づいていった。


「うわっ! フルトヴェングラー教官!」


永年士官学校で教鞭をとっていたローレンツは軍内部に教え子も多い。ベティーナもその一人だった。ローレンツは逃げるベティーナのマントをむんずと捕まえると、説教を始めた。


「まだ、こんなことをやっているのか? ベティーナ君! だいたい、君は軍団長としての自覚がなさすぎる! いいかね。そもそも、軍団長と言うものは……」


くどくどと、いつ果てるともなく続くローレンツの説教、泣きじゃくる最年少軍団長に、大笑いするその部下。今日の仕事はもうできまい。シラーは机に突っ伏した。


「軍団長……」


「なんだ? ヘルマン」


ヘルマンの呼びかけに、シラーはだるそうにこたえた。


「わたしは第七軍団長に逆らえそうもありません」


「今頃気づいたか? 俺は、十年前からだよ」


机に沈み込んだシラーは遥か遠くの親友を思った。ハイネ……お前、帰して本当に良かったよ。自分の仕事を終えられぬまま、シラーの一日は更けていった。

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