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第一章 オセロー平原の戦い 第十六話

フォレスタル軍の兵士が声を荒げた。その報をうけたハーヴェイは直ちに対空防御を命じた。


「重装歩兵、長槍構え!」


ハーヴェイはようやく追いついた重装歩兵に長槍を高く掲げさせた。この時代において、龍騎兵に対して最も効果的でかつ一般的であった対空防御戦術は重装歩兵による長槍防御であった。弓矢の命中率は決して高くはなく、一騎一騎撃ち落とすのは不可能と考えられていたためである。そのため、三〇年前のフォレスタルとワイバニアの戦争において生み出されたのが長槍防御だった。あえて龍騎兵を味方陣深くまで攻め込ませ、そのスピードを逆用して間合いの長い長槍を敵龍騎兵に突き立てるこの攻撃は見事に効を奏し、一時期、ワイバニア皇帝自らが龍騎兵による単独出撃を中止させたほどだった。


「ひるむな。軍団長閣下が見ておられるのだ。急降下攻撃中止。落石用意!」


ワイバニア第七軍団龍騎兵大隊長、ヨーゼフ・フォン・シュタインベルガーは言った。ヨーゼフの指示からほどなくしてひと際大きな翼竜がその大きな脚に一つずつ大きな岩を運んでやって来た。大型翼竜は護衛の龍騎兵をしたがえて、主力の龍騎兵部隊を追い越した。


「あれは……まずいな。総員落石に注意せよ。第三機動歩兵大隊と騎兵隊は左翼の騎兵に対応せよ」


ハーヴェイは軍団全員に上空への注意を促した。


フォレスタルがワイバニアに対する防御戦術を生み出したのと同じように、ワイバニアもまた、龍騎兵のより有効な戦術を生み出していた。それが落石戦術だった。


上空から大岩を落とし、一種の質量兵器として機能させ、それによって、崩れた陣形を他の部隊が攻撃するというものだった。シンプルで原始的な攻撃であったが、その分完成された攻撃であると言えた。落石の威力は戦況を左右するほど大きくはない。だが、その大岩を回避するために隊列を大きく崩さなければならないため、陣形を大きく乱すこの戦術は三〇年近くの間、軍団指揮官を悩ませていた。


大型翼竜はしばらくの間、戦場の上空を旋回飛行していたが、霧が完全に晴れたことを見定めると、陣形の急所になるべき部分に岩を落下させた。


「全軍、回避!」


ハーヴェイは全軍に回避の指示を出したが、陣形の急所をついた落石攻撃によって、第二軍団の陣形は隙だらけになってしまった。


「今だ! 軍団両翼は前進。騎兵大隊は敵左翼を寸断せよ」


アンジェラはマントを翻して、命令を下した。アンジェラ率いる第七軍団はフォレスタル第二軍団を包囲すべく前進を開始した。龍騎兵による落石はなおも続いており、第二軍団は攻撃も防御もままならず、戦線が崩壊しつつあった。


「全軍後退!」


ハーヴェイは兵が動くこともままならないと承知していたが、それでも被害を宰相に食い止めるために後退を命令することしか出来なかった。


「ははは! この戦、俺たちの勝ちだ! 騎兵隊、総員抜剣! フォレスタルどもを蹴散らせ!」


第七軍団騎兵大隊長、ブルーノ・フォン・リリエンタールが叫んだ。ブルーノ率いる騎兵大隊は孤立しかけていたフォレスタル軍の左翼、フォレスタル第三機動歩兵大隊と騎兵大隊に襲いかかった。通常ならばこの騎兵隊の猛攻を前にフォレスタル軍左翼は壊滅していただろう。だが、今回に限って、一気に潰乱の憂き目にあわなかったのは第二軍団副軍団長ブラッド・バーノンの指揮によるものが大きかった。


彼は機動歩兵大隊を正面に出し、騎兵の猛攻を防いだ。歩兵は一般に龍騎兵や騎兵による突進戦術には弱かったが、バーノンは歩兵の武器をボウガンに変えることで見事に対応した。そして、正面の歩兵隊をワイバニア騎兵隊が攻めあぐねているうちにフォレスタル騎兵が両側から側面攻撃を仕掛けた。奇襲攻撃を仕掛けたはずのワイバニア騎兵が逆撃を被っただけでなく、さらに包囲されつつあることを知ったアンジェラは直ちに予備兵力である一個歩兵大隊を投入させ、ワイバニア騎兵の退却を助けた。フォレスタル軍左翼はこの騎兵隊と歩兵大隊に攻勢に出られるほど、士気、兵力ともに十分であったが、バーノンは追撃に出ることを断念した。本隊の戦線が崩壊の一途をたどっていたためである。

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