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第四章 決戦前夜 第五十四話

「笑うな!」


「ははは。ごめんごめん。それよりもほら、見てみろよ」


ヒーリーは剣を交える女剣士二人を指差した。レイはその様子を見て驚いた。ベスの動きが明らかに鈍く、遅くなっていた。


「あんな攻撃をして、そんなに長い間体力が保つ訳はない。すぐに限界が来るに決まっている」


「連隊長はそれを読んでいたのか!?」


レイの問いにヒーリーは頷いた。ベスの斬撃は並の男とは比較にならないほどの剛剣である。しかし、華奢なベスには、それだけの一撃を放つ筋力はない。ベスは全身の筋肉のバネを絶妙の感覚で利用して、一撃を放っていた。


だが、そんな無茶は長い間続かない。全力で戦える時間はごく限られていた。ベスもそのことを知っており、アンジェラに対して短期決戦を仕掛けたのだった。


むろんのことだが、アンジェラは一撃を受けた瞬間、ベスのそれが長く続かないことに気づき、最小の動きでベスの攻撃を防ぎながら彼女の自滅を待っていた。


「どうだ? これがワイバニア軍団長の戦い方と言うものだ」


再びベスと距離をとったアンジェラは片手で細剣を構えると、ベスに切っ先を向け嘲笑のおまけつきで、自信満々に言い放った。


「こ、の……、ふざけるなぁぁぁぁぁ!」


ベスはアンジェラの挑発に乗ると、顔を真っ赤にして突進した。


「うわぁぁぁぁぁ!」


ベスは力一杯カトラスを横に振ったが、手応えはなかった。アンジェラは高く跳躍すると、愛剣を振りかぶった。誰もがアンジェラの勝利を疑わなかったが、一同の信じられないことが起きた。ベスが振り抜いたカトラスを構え直し、空中のアンジェラに突きを放ったのである。


「まずい!」


このままでは、アンジェラは怪我では済まない。死んでしまう。ヒーリーは愛銃ポルックスを抜こうとした。だが、とうのアンジェラは取り乱さなかった。振りかぶった細剣の持ち手を変え、カトラスの軌道を反らし、地面に着地した。さらにアンジェラは間合いを詰め、ベスの懐に入ると、カトラスを弾き飛ばし、ベスののど元に細剣をつきつけた。


「う……」


「お前の負けだ。エリザベス」


金色の髪をなびかせ、眼光鋭くアンジェラは言った。ベスは負けを認めると、力なく膝を屈した。その瞬間、アルレスハイム連隊の兵士達が歓声を上げた。


「やったぜ! ヒーリー! あはは! やっぱり信じた甲斐があったよ」


肝を冷やしたヒーリーの肩をバンバン叩いて、レイは大笑いした。友人の調子の良さに半ば呆れたヒーリーはため息をつくと、ポルックスを胸のホルスターに納めた。


「まったく、調子のいい奴」


歓声が響く中、アンジェラは膝をつき、ベスに手をさしのべた。


「立てるか? エリザベス」


ベスはアンジェラをにらむと、アンジェラの手を振り払った。


「哀れみはごめんさ。あたしにだってプライドはある。勝者の施しは受けないよ」


「その割には、立てなさそうだがな……よっと!」


アンジェラは無理矢理ベスの手をつかむと、肩を担いで立ち上がらせた。


「良い剣だった。あれほどの剛剣の使い手は、ワイバニアでもそうはいない。大した腕だ、エリザベス」


「あんたこそ。あたしの剣を受けきる女なんて初めてだよ。マーガレットだって、こうはいかなかったさ」


「それは光栄だな」


アンジェラはベスに向け、優しく微笑んだ。刀傷を負った顔ではあったが、その顔はとても美しく、聖女のようであったという。ベスはこれがついさっきまで厳しい顔をして剣を交えて戦っていた女の表情だったかと思うと、そのギャップに笑い出した。


「あぁ、そうだな。あははははは!」


星王暦二一八三年六月二三日、ヒーリー・エル・フォレスタル率いるフォレスタル王国メルキド増援軍はフォレスタル水軍陸戦隊という、強力な味方を引き入れることに成功した。

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