第四章 決戦前夜 第五十二話
「久しぶりだねぇ。ヒーリー。女を引き連れての来訪とは、ずいぶんといい男になったもんじゃないか」
手に持ったキセルをくわえ、ベスは不敵に笑った。
「彼女は付き添いだよ。ベス、こちらは……」
ヒーリーがアンジェラを紹介する前に、アンジェラはヒーリーの前に出て、名乗りを上げた。
「フォレスタル軍第五軍団、アルレスハイム連隊隊長アンジェラ・フォン・アルレスハイムです」
毅然としたアンジェラの態度にベスは少し面食らい、片眉を器用に上げたが、すぐに目を閉じ低く笑った。
「フォン・アルレスハイム……貴殿があの”仮面の女傑”か。このような片田舎にてお会い出来るとは光栄至極」
「ベス。彼女は俺の仲間であり、友人だ。彼女に対する非礼な態度はやめて欲しい」
少し皮肉めいたベスの笑みにむっとしたのか、ヒーリーは彼女に抗議した。
「これは失礼した。私の性分故、貴殿の名誉を軽んじるつもりはなかった。許していただきたい」
ベスの言葉にアンジェラは小さく頷いた。世間話もそこそこに、ベスは本題に入るべく、二人にソファへの着席を促した。
「父上からだいたいの話は聞いている。父上は了承したらしいが、私の答えはノーだ」
ソファに深く腰掛けて、キセルを一服ふくんだベスは煙を吐き出した。ヒーリーは、緑色の髪をくしゃくしゃとかくと、ため息をついて言った。
「そう言うと思ったよ。君は小さい頃から俺を困らせるのが好きだったからな」
ヒーリーの不安を鼻で笑ったベスは、ソファにもたれると、ヒーリーに返した。
「それだけだと思うかい? ヒーリー」
「違うのか?」
「昔と違って、私にも立場があるんだよ。ヒーリー。私は水軍陸戦隊長さ。立場ってのは部下の生活、命、いろんなものを背負うんだよ。もちろん、名誉もね」
煙をふっと吹き、ベスは静かに語った。
「あたしたちは水の上、陸の上で常に命を張ってるんだよ。あたしたちはガラは悪いかも知れない。けどね、フォレスタル最強という名誉を常に背中をしょってるんだ」
キセルをくるくるともてあそびながら、ベスは抑揚を抑えて話した。
「けどね!」
ベスはもてあそんだキセルを握り折ると机に拳を叩き付けた。
「補給部隊の護衛っていう、運び屋の真似事をしろと、どうやって部下に言うつもりだい? あたし達の誇りを、お前は何だと思っているんだい!」
言い終えるとベスは荒く息をついた。
「ベス。君はこの任務がどれだけ、どれだけ重要かわかっているはずだ。そして、だからこそ、俺は君たちにこの任をやり遂げて欲しいんだ。フォレスタル最強の兵士集団である君たちに。君ほど、フォレスタルで部下思いの指揮官はいない。そのことも俺はわかっているつもりだ」
従兄弟の言葉にベスは少しだけ顔を赤く染めた。
「まったく、相変わらず嫌な男だね。ヒーリー」
「そうか……」
ヒーリーは自嘲気味に微笑んだ。
「ふ、ふふ……なるほど。今、合点がいきました。参謀長殿が何故、副軍団長でなく、私をヒーリー殿の付き添いに選んだのかを」
アンジェラは立ち上がると、眼前の者を魅了するほどの美しい動きで剣を抜くと、エリザベスに切っ先を突きつけた。
「抜け。エリザベス・イル・フォレスタル」
次回!アンジェラとエリザベスの決闘が始まる!?二人の勝利の行方は!?
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