第四章 決戦前夜 第五十一話
フォレスタル水軍陸戦隊はフォレスタル軍内部では、勇名よりも悪名でその名がとどろいている。素行の悪さと蛮行が遠く王都シンベリンにまで報告されていた。これに頭を痛めた国王ジェイムズが水軍の責任者である実弟ウォルターに再三注意をしているのだが、その度にウォルターは
「河の男は大概そんなもんじゃき」
と笑って聞き流した。しかし、その気性の荒さや素行に反して、フォレスタル水軍の強さは、フォレスタル軍最強、最精鋭の第一軍団と互角と言われ、兵士個人の強さとしては第一軍団をも凌ぐ最強の部隊であった。
ウォルターは水軍の強さが河の民の気質にあると考えており、それをそぐことは隠れたフォレスタル最強部隊の力を失わせることになると考えていたのだった。
ヒーリーはアンジェラに水軍の事情、そしてその強さを説明しながら2階の陸戦隊長室に向かった。二階は総司令部の中枢があることもあり、荒廃した一階部分とは違って、整然とされていた。すれ違いの兵士や士官もヒーリーとアンジェラに敬礼を忘れず、そのことは少なからずアンジェラに安堵感をもたらした。
「司令部自体の統率は行き届いているようですね」
「まぁ、一筋縄でいってくれる連中なら良いのですが」
ヒーリーは陸戦隊長室の前に立つとそのドアをノックした。
「ヒーリー・エル・フォレスタルだ」
「入れ」
若々しいが、艶やかな声がドア越しに聞こえた。ヒーリーはドアを開け、アンジェラを導いた。二人の前にはマントを羽織った濃緑色の長髪の美女が立っていた。フォレスタル水軍陸戦隊を率いる女傑、エリザベス・イル・フォレスタルである。