第四章 決戦前夜 第四十四話
「シラー軍団長、独断が過ぎたわね。軍団長の処遇に関しては皇帝陛下とわたしにその権限があるの。わかっているわね」
「はい」
「まして、第一軍団は我々の切り札。その長をわたし達に無断でベリリヒンゲンまで帰したとなると、あなたも処分を免れないわよ」
「覚悟しております」
シラーは粛々とシモーヌの話を聞いた。どんな理由であれ、皇帝側の言い分の方が筋が通っている。シラーは軍団長位剥奪を覚悟した。
「まぁ、いいんじゃないの?怪我なら仕方ないさね」
手を頭の後ろに組んでマルガレーテが右元帥に言った。
「そうだな。第一軍団の損害も大きい。戦力の再編と兵の休養も必要だ」
第八軍団長のゲオルグ・ヒッパーも頷いた。
「ほほ。わしら軍団長はシラーのしたことを悪いとは思うとらんぞ。戦傷が重くなれば、最悪の場合死に至ることも考えられる。わしらにとっては、それこそ大きな損失ではないかの?」
第四軍団長のグレゴール・フォン・ベッケンバウアーが言った。実戦指揮官である軍団長達に逆らわれては皇帝と右元帥といえどもなにも言えなかった。右元帥は、シラーの勲章剥奪と引き換えに、ハイネのベリリヒンゲン帰還を許すことを皇帝に進言した。皇帝のジギスムントは不機嫌そうにシモーヌの案に頷くと、戦いに功のあったマルガレーテとザビーネに勲章を授けて式典を終わらせた。
ジギスムントは諸将を解散させた後、側近のフリードリヒを近くに呼び寄せた。
「ヴィヴァ・レオの生死はどうなった?」
「報告ではクライネヴァルト軍団長自ら討ち取られたと……」
「報告などあてにならん。首はあるのか?」
「いえ、戦闘による火勢強く、回収出来なかったとのことです」
フリードリヒの報告を聞いたジギスムントは玉座に肘をついて考える仕草をした。
「フリードリヒ。余が世界をとったその時、クライネヴァルトは消せ」
ジギスムントは眼光鋭く側近に命じた。
「罪状はヴィヴァ・レオを逃がしたことだ」
「しかし、多数の兵士がヴィヴァ・レオの死を目撃しておりますが……」
「余が生きていると言えば、生きているのだ。よいな」
「御意」
そう言うと、フリードリヒは一礼し、本陣のテントを出て行った。
「悪い人ね。死者を生き返らせるなんて」
二人だけになった皇帝本陣の中で、シモーヌはジギスムントに言った。
「死人に口無しだ。ヴィヴァ・レオにはハイネ失脚の役に立ってもらうとしよう」
そう言うと、ジギスムントはシモーヌの体を乱暴に引き寄せた。
「お前もだ。シモーヌ。俺に何か隠していたら、その時は……」
シモーヌは服を脱ぎ、下着だけの姿になると、妖艶な笑みを浮かべながらジギスムントにささやいた。
「わたしはあなたの協力者。この声、この体。何も隠すものなどないわ……」
シモーヌはジギスムントに唇を寄せると、手に持った扇を投げ、ろうの明かりを消した。