第四章 決戦前夜 第四十三話
「レイヴン。ハイネを少しの間休ませたいんだ。ベリリヒンゲンまで、ハイネを送ってやってくれ」
ハイネを抱きかかえたシラーがレイヴンに頼んだ。レイヴンはシラーの前に首を差し出し、低く唸った。Yesのサインである。
「ありがとう。レイヴン」
ハイネをレイヴンの背に乗せると、出血の止まらぬ手をかばいながら、シラーは笑った。レイヴンは高くいななくと、空高く舞い上がった。
皇帝本陣ではジギスムントが豪奢な装飾が施された簡易型の玉座に腰掛けていた。
「第二軍団長と第一軍団長はどうした?」
ジギスムントは不機嫌そうに尋ねた。
「第二軍団長殿は、体調が優れぬ故、欠席するとの報告が入っております」
皇帝側近のフリードリヒ・フォン・ヘンデルがそっと口添えした。
「第一軍団長はどうした?」
眉目秀麗な側近は表情を崩さずに皇帝に言った。
「第一軍団長殿に関しては、報告は入っておりません」
「あやつめ。余の式典を愚弄するか……」
ジギスムントは舌打ちした。式典の刻限は過ぎていると言うのに、功のあったハイネもシラーも現れなかった。気に入らないハイネを、面前で侮辱することが今回ジギスムントが式典を開いた目的だった。軍団長の誰もがこのことを分かっていたので、出席するのも気が進まず、ただ目を伏せていた。そのとき、テントの幕を開けてシラーが入ってきた。
「遅いぞ。シラー軍団長」
「申し訳ありません、陛下。それと報告いたしたいことがございます。第一軍団長ハイネ・フォン・クライネヴァルト、先の戦闘で受けた戦傷が重く、わたしの独断でベリリヒンゲンまで返しました」
「何だと!」
ジギスムントは玉座から立ち上がった。それを見たシモーヌが前に出てシラーに言った。