第四章 決戦前夜 第四十一話
「何故……?」
「陛下と右元帥を斬るおつもりなのでしょう? あなたの殺気が遠く離れた場所からでも感じましたから」
「で、どうするおつもりか」
ハイネは鞘に手をかけてマレーネをにらんだ。
「戻らなければ、力づくでも……」
マレーネはそう言うと、愛槍の鞘を抜いた。
「わたしに勝てるとお思いか? アウブスブルグ殿」
「ここでわたしが死んでも、あなたをお止めしなければならない。わたしはそう覚悟して参りました」
「そうか……」
ハイネは静かに愛剣を抜いた。ほんの数瞬の対峙の後、マレーネはハイネに攻撃を仕掛けた。反撃も反応も許さぬ程の超高速の突き。槍の穂先はハイネの攻撃の起点である右肩を確実に貫いた。……はずだった。マレーネの渾身の突きはハイネの残像を貫き、空しく空を切った。
「すまぬ。マレーネ殿。貴公の気持ちだけ受け取っておこう」
マレーネの耳元でハイネはささやき、剣の柄でマレーネの腹を突いた。
「ハイ……ネ……」
急所をうたれ、遠のく意識の中、マレーネはハイネの背中を見送った。
マレーネを倒し、一人皇帝宿営地にやってきたハイネはよく知る二人に出会った。
「マンフレート、ワイエルシュトラス……」
「お前には済まないことをしたと思っている」
「いや、いい。ここを通してくれ、マンフレート」
「だめだ。通す訳にはいかない」
「通してくれ、マンフレート」
ハイネの懇願にシラーは身を前に出し、一向に動くそぶりを見せなかった。
「通せば、お前は陛下と右元帥閣下を斬るだろう。そんなことをしてみろ、お前、死ぬだけでは済まないぞ」
シラーはハイネに言った。そのとき、白銀の切っ先がハイネののど元に突きつけられた。ハイネとシラーはその剣の持ち主に目をやった。