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第四章 決戦前夜 第三十九話

メルキド軍はもはや全滅に等しかった。レグロン隊は隊長のレグロンをはじめ全滅し、メルキド軍は今や、司令部大隊数名を残すのみになっていた。


ヴィヴァ・レオも軍団長専用石兵「マルス」を駆って奮戦したが、心身ともに限界に達していた。「マルス」も激戦によって満身創痍の状態で腕は落ち、駆動部は不気味な音を立てていた。ヴィヴァ・レオは「マルス」から降りると、愛剣を杖代わりにして立った。


「はは……切り疲れてしまったな。……ブリオン……」


ヴィヴァ・レオのすぐ横には、ブリオンの遺体があった。信頼する参謀長も有能な部下も皆逝ってしまった。歩く力すら残っていないヴィヴァ・レオはただ、自分を遠巻きにしている兵士を見ることしかできなかった。


やがて、兵士達をかきわけて、紅のマントを羽織った若い男が現れた。男は自分が血に汚れるのも構わずに血だまりを踏みしめてヴィヴァ・レオの前に立った。


「わたしはワイバニア軍第一軍団長ハイネ・フォン・クライネヴァルト」


「メルキド公国軍第一軍団長ヴィヴァ・レオだ」


名将二人は互いの名を名乗った。戦場での礼儀であるかのように。


「貴公は……」


「なぁ、ハイネ……お前さんには家族はいるか?」


「父と兄が帝都に……」


「俺には女房と子どもが二人、まだやんちゃな年頃でな。家に帰れば、襲いかかってきやがって、大戦争だよ」


ヴィヴァ・レオは笑った。この状況で何を話すのか。ハイネはヴィヴァ・レオの様子に戸惑っていた。


「何を……?」


「なぁ、ハイネ……俺は家族に胸を張れる戦いをしたか? 子ども達に『父ちゃんはすごい』と言える戦いぶりだったか?」


ハイネは目を閉じて愛剣を鞘から引き抜いた。剣を構えると、悲しい目をしてヴィヴァ・レオに告げた。


「貴公はアルマダ最高の勇者だ。貴公の家族に出会えたなら、そう伝えよう」


「ありがとう……やってくれ」


ひと雫、涙が落ちた。それが誰のものであったか、誰にも分からなかった。涙が地に落ちた瞬間、ハイネは神速と謳われる早さで剣を振り、ヴィヴァ・レオの首をはねた。


「全てを燃やせ。灰すら残すな。それが、皇帝からこの勇者たちを守ってやれる唯一の手段だ」


そう言うと、ハイネは血のりを落として納刀して、踵を返して歩き出した。


「軍団長……」


エルンストはハイネを見送ることしか出来なかった。この時のハイネの背中はとても悲しげであったと、彼は日記に残している。


星王暦二一八三年六月十三日午後八時一三分、アーデン要塞陥落。アーデン盆地の戦いはワイバニア軍の勝利で幕を閉じた。


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