第一章 オセロー平原の戦い 第十四話
また、彼女率いる第七軍団は攻守の均衡がとれた軍団で、それだけ上層部にとって使い勝手がよく、各地の戦場をめまぐるしく駆け回っていた。
アンジェラはテンペスト湖北方の湖岸に陣をしき、相手の出方をうかがった。アンジェラ前方の対岸にはハーヴェイの第二軍団の影が見えていた。
約二時間の間、両軍はにらみ合いを続けていた。アンジェラはテンペスト湖の湖岸に立ち、腕を組んで敵手となる軍団を見据えていた。湖の風に吹かれて、仮面の女将軍の長い金髪が、美しくたなびいていた。
「この戦い、相手の方に地の利はある。警戒を怠るな」
アンジェラは第二軍団の攻撃を警戒し、臨戦態勢を崩さなかった。
「こちらの方に地の利はある。各隊は手はず通り、冷静に対処せよ」
アンジェラが防御態勢をとったのに対し、ハーヴェイはやや柔軟に雁行陣を敷いた。これは隙あらばいつでも攻撃に転じるように考えたためである。両軍がにらみ合いを始めて二時間後、事態は急変した。テンペスト湖から突如水柱が上がったのである。
テンペスト湖周辺は温泉が多く、湯治場として知られていた。温泉の水脈は湖底を通っており、週に一度から二度は間欠泉を至る所で噴出させていた。
ハーヴェイは過去の記録を調べ上げ、間欠泉が吹き出すタイミングを計算に入れて、テンペスト湖に布陣していた。突如吹き出した間欠泉に、ワイバニア第七軍団は動揺し色めき立った。
「騒ぐな。防御を固め、陣形を崩すな。敵が仕掛けてくるかもしれん。偵察龍騎兵を出せ」
アンジェラは後ろの部下に命令すると、前を向いて真っすぐ湖を見据えた。彼女の眼前のテンペスト湖では数十本の間欠泉が吹き上がっていた。
「まだだ。まだ動くな」
上空に龍騎兵の姿を見たハーヴェイは、はやる兵達を控えさせた。事態は刻一刻と変わり、やがて湖の周辺が白みだした。高温の間欠泉が湖水に冷やされ、霧を作り出したのである。数十本の間欠泉から生み出された霧は瞬く間に湖を覆い尽くした。