第四章 決戦前夜 第三十一話
「第二、第三歩兵大隊、突破されました!!」
ハイネのもとに、メルキド軍後方を攻撃していた2個大隊が突破されたとの報告が入った。
「敵も必死と言う訳ですな。本気で退却しているとなれば、2個大隊などひとたまりも・・・・・・失礼しました」
報告を受けたエルンストはわずかに余計なことを発したとハイネに詫びた。
「いや、気にする必要はない。第二、第三大隊を本隊に合流させろ。他に分散させていた全部隊も本隊に合流させる。急げ」
ハイネは金の長髪を風になびかせて、部下に命じた。
「まだだ。要塞の射程に引き込めば、勝機はある」
ヴィヴァ・レオは剣を高く掲げて、後退する全兵士に向けて呼びかけた。
アーデン要塞は盆地の出口左右に築かれた二つの砦で構成される。石レンガで作られたがへ気は矢も龍の牙も通さず、兵士がよじ上ることができない高所に備えられた無数の矢口からは敵兵に向けて容赦なく矢の雨が振らされる、完全無欠の要塞だった。
ヴィヴァ・レオは要塞からの十字砲火にすべてを賭けていた。
ヴィヴァ・レオ率いるメルキド第一軍団はその傷ついた体を引きずりながら、ワイバニア軍をアーデン要塞の射程に巧みにおびき寄せていた。
「敵軍の先鋒はまだ、我々を追撃しています。このまま敗走を・・・・・・いや、後退を続けますか?」
「敵がそれを許してくれるのならな」
参謀長のブリオンの問いにヴィヴァ・レオは返した。全軍集結のためだろうか。いささかながら敵軍は速度を緩めている。こちらがタイミングを間違えなければ、十分に要塞の射程に誘い込める。ヴィヴァ・レオは考えをめぐらした。