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第四章 決戦前夜 第三十話

「よく戦っているようだな。第一軍団は」


戦場の最後方、第二軍団と第四軍団を両翼に従え、絶対安全圏を確保した皇帝本陣で、ワイバニア帝国皇帝ジギスムント一世はにやりと不敵な笑みを浮かべた。


軍団長を指揮下の軍団に飛ばし、最上級指揮官の少なくなった皇帝本陣には、戦況を報告する伝令兵が次々とやってきていた。ジギスムントはベティーナ・フォン・ワイエルシュトラス率いる第七軍団に詳しい戦況を報告するよう命じていた。


これは、参謀出身であるベティーナが最も的確かつ正確に情報収集ができるとジギスムントとシモーヌが考えたためであり、ベティーナは二人の期待に見事に応えた。


彼女は手持ちの龍騎兵を戦場の空に飛ばし、空から戦況を把握すると共に、2個大隊の兵力をアーデン盆地周囲の山に分隊規模で分散して配置させた。これにより、戦場のより詳細な様子がジギスムントらに伝えられた。


「クライネヴァルトは本当に良く戦っている。自分がただの囮に過ぎないということにも気づかずにな」


ジギスムントはさらに底意地の悪い笑みを浮かべて低く笑った。ジギスムントの前に広げられた陣形図には、ハイネ率いる第一軍団がヴィヴァ・レオ率いるメルキド軍を要塞へと追いつめている様子が描かれていた。


「ふふふ・・・・・・もうすぐね」


露出の高い服に身を包んだ右元帥のシモーヌが腕を組んでジギスムントの背後の暗闇から現れた。ここが戦場で、しかも右元帥と言う称号がなければ、娼婦と勘違いされてもおかしくない格好だった。


「あぁ。もうすぐだ・・・・・・」


ジギスムントはそんなシモーヌに一瞥だにせず言った。陣形図の第一軍団はなおも前進を続けていた。

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