第四章 決戦前夜 第二十六話
そのわずか数秒後、さらなる岩の津波が戦象隊に押し寄せた。あるものは腹をえぐられ、あるものは膝を砕かれ、ほぼ全ての戦象が地に倒れ込んだ。それはテコニックの座乗する戦象とて例外ではなかった。
「うおっ!」
戦象の頭部に跳弾が直撃し、戦象はぐらりと横に倒れた。ほんの一瞬のことではあるが、テコニックら、櫓の中の人間は、皆天地が変わったと感じただろう。
ぐしゃと言う、不気味な金属のひしゃげる音と共に、テコニックの視界が暗闇に閉ざされた。星王暦2183年6月13日午後4時35分、メルキド軍第一巨兵大隊長テコニック戦死。戦闘開始から、わずか10分のことだった。そのさらに5分後、メルキド公国が誇る最強の巨兵大隊は全滅した。
「ばかな・・・・・・」
あまりの光景にブリオンは色を失った。龍騎兵に強いはずの巨兵大隊がたったの15分で全滅したのだから。だが、メルキド軍の悲劇はこれだけにとどまらなかった。巨兵大隊を全滅させた龍騎兵達がその余勢をかって、メルキド軍に襲いかかったのである。空から襲い来る翼竜の牙や爪に、兵士達は無力だった。メルキド兵達は翼竜達にその臓腑を食い破られ、次々と地面に倒れていった。
「うろたえるな。演技する必要がなくなっただけだ。総員対空防御姿勢のまま、後退だ!!」
ヴィヴァ・レオは総大将たる威厳をもって命令した。なんと滑稽なことか。敗走を威厳を込めながら命令するとは。ヴィヴァ・レオは心の中で自分を笑った。切り札を失いメルキド軍の敗北はほぼ決定的となっていた。未だ1万にせまる兵力を残していたが、巨兵を失った兵士達の動揺は大きく、陣形に隙が生じ始めていた。
「今だ!敵を突き崩せ!!」
ハイネは最前線の重装歩兵大隊と龍騎兵大隊に追撃戦を命じた。