第四章 決戦前夜 第二十五話
「うひゃぁぁぁ!」
第一中隊所属の龍騎兵、テオドール・フォン・ヘルツォークが不謹慎な叫び声をあげた。テオドールの目の前にはアーデン盆地の大地が凄まじい勢いで迫りつつあった。
「いつもながら寒気するな。急降下ってのは。なぁ、トール。これから少し重いかも知れないけど、我慢してくれよな」
めまぐるしく変わる景色の中で、テオドールは愛騎の首を撫でた。地面に触れる刹那、ワイバニア龍騎兵達は翼竜の体を引き起こした。
「そうら!」
テオドールは手綱をひくと、がくんと引かれるような重い感触を感じた。翼竜が携えた岩が落下のスピードを加えて、さらに重さを増したためだった。それでも、地面との激突をぎりぎり回避すると、ワイバニア龍騎兵隊は巨兵に向けて必殺の一撃を放った。
「いけぇ!」
テオドールは手綱をひねり、愛騎に命令を伝達した。すると、大岩が翼竜の足から離れ、メルキド巨兵めがけて殺到した。
「回避ぃ! かい……」
背中に巨大なボウガンを抱えた中長距離支援用石兵「ヘラクレス」隊長が言えたのはそれだけだった。二個中隊分、二〇〇個の岩の津波が石兵を押し流した。
「よっしゃ!」
愛騎トールの翼を羽ばたかせ、上昇していたテオドールは思わず拳を握った。石兵に対するワイバニア軍の完全勝利だった。
「跳弾だと……。やつら、何て技を……」
龍騎兵の刃や牙を防ぐ、対龍装甲板に空けられた小さな窓からテコニックは石兵隊が全滅する様を見せつけられた。
アルマダの中でも最長の射程を誇るヘラクレスの大型ボウガンの間合いの外からの攻撃。龍騎兵は全く損害をうけることなく、石兵や戦象への攻撃が可能になる。テコニックは悟った。自分たちがいかに無防備で無力な様をさらけ出しているのかを、そして自分の最期のときを。窓の外には、さらに三〇〇の龍騎兵が急降下を開始する姿が見えた。