第四章 決戦前夜 第二十二話
「敵歩兵大隊は追撃してこないようです」
メルキド軍第一巨兵大隊長付副官のプレヴューが大隊長のテコニックに報告した。
「そうだろうな。敵歩兵の損耗は限界に達していたからな。追撃するだけの力は残っていまい」
ワイバニア軍優勢のこの戦いの中で、唯一局地的に勝利をもたらしていたのが、テコニック率いる第一巨兵大隊だった。この時点でも、巨兵が歩兵に打ち克つという世界のルールを覆す事態が起きてはいたが、挙兵隊がワイバニア歩兵に極めて大なる損害を与えていた訳ではなく、ワイバニア軍も整然と後退したため、歴史を覆すほどの事象にはならなかった。
もっとも、メルキド軍にとっては、世界のルールを覆すということよりも、目の前のワイバニア軍本隊が気がかりであったろう。
ワイバニア軍は騎兵大隊を使い、メルキド軍先鋒を挟み撃ちしていた。これによって受けたメルキド軍の損害は小さなものではなく、先鋒のメルキド軍騎兵大隊は3割の損害を出していた。
「・・・・・・後退、後退だ!」
メルキド軍騎兵大隊長のガルフ・ストリームは指揮下の大隊に後退命令を出した。しかし、後退命令は出したものの、その実行は困難を極めた。
虎吼によってメルキド軍騎兵大隊はほぼ前後に分断されており、特に、最前線の部隊はバルトホルト率いるワイバニア軍司令部大隊の猛烈な射線にもさらされ、潰乱の様相を呈していた。
「くそ・・・・・・ワイバニア軍め」
馬上から崩壊する戦線を見て、ガルフは悔しさに拳を握りしめた。