第四章 決戦前夜 第二十一話
「敵将はまさに天才だな」
馬上からハイネの用兵を見たヴィヴァ・レオはその手際に嘆息した。
「自軍の窮地をこうもあっさり覆すとは。憎らしいを通り越して、かえって清々しくありますな」
メルキド軍参謀長のブリオンは苦笑しつつも軽口を叩いた。ヴィヴァ・レオは信頼する参謀長の軽口を笑って流すとあごに手をあてた。
「このままでは、我々は敵に包囲されてしまうな・・・・・・よし。騎兵大隊の救援に2個歩兵大隊を前面に展開、敵に横撃を加えたら、全速力で後退、全軍も合わせて後退する。一目散に、必死を装ってな」
「そうすると、軍団長は・・・・・・あれをやるおつもりですか?」
「そうだ。当初の予定通り、敵を要塞のクロスファイアポイントにおびき寄せる」
ブリオンの問いに、ヴィヴァ・レオは不敵に笑って答えた。
「敵歩兵大隊に張り付いていた、第一巨兵大隊を敵の騎兵大隊に攻撃させよ。機動力を奪え」
ヴィヴァ・レオはハイネらの機動力を奪うべく、巨兵大隊を投入することを決めた。しかし、これが歴史を変える一瞬を演出してしまうことになった。
メルキド軍巨兵大隊が第一歩兵大隊から離れたと言う報告を受けたハイネは目を見開き、傍らの愛騎の名を呼んだ。
「レイヴン!!」
ハイネの愛騎レイヴンは、ハイネの声に応え、高いいななきを発した。エメラルドワイバーンは翼竜の中でも極めて希有な種で、他の種の翼竜と交信が可能であり、かつそのいななきは遠く離れた個体にも届くと言われている。後方に待機していたワイバニア軍第一軍団第一龍騎兵大隊の翼竜達はそのいななきに体を振って反応した。
「いよいよか・・・・・・」
第一軍団副軍団長兼第一龍騎兵大隊長ゲルハルト・ライプニッツは愛騎の反応を見て、攻撃開始の時を悟った。
「全騎離陸!これより、メルキド軍巨兵大隊を急襲する!」
ゲルハルトは直ちに離陸命令を出し、陣を発った。世界の不文律を変える時が、今始まった。