第四章 決戦前夜 第十九話
一方、ヴィヴァ・レオ率いるメルキド第一軍団主力は、ハイネのいる司令部大隊をその眼前に認めた。
「ボルガ隊長の仇だ!けちらしてやれ!」
メルキド軍の騎兵中隊長は叫んだ。メルキド軍は騎兵を先頭に真っすぐハイネの本営に向かってきた。
馬のひづめが放つ地鳴りと、復讐に燃えるメルキド軍の叫び声が、ワイバニア軍にも伝わってきた。
敵軍の鋭鋒を真っ向から受け止める司令部大隊の中の司令部直衛5個中隊がメルキド軍への迎撃準備を整えていた。弓を構えた直衛中隊の若い兵士が生唾を飲み込んだ。
「怖いか?」
隣で弓を構えた熟練の兵士が尋ねた。
「い、いえ!怖くなどありません!!」
恐らく、初の実戦なのだろう。兵士はうわずった声を上げた。
「そうか。それでこそ、ワイバニア第一軍団だ。だがな、俺は怖い。戦争は全てを狂わせ、失わせる。一瞬でだ。覚えておけ、若いの。何も失いたくないのならば、生き残りたいのならば、臆病になることだ」
熟練兵は声を抑え、静かに語った。優しいが、厳しい表情を浮かべて。
「はい」
若い兵士は頷くと、眼前の大軍勢を真っすぐ見据えた。メルキド騎兵の蹄の音が、大きな地鳴りとなって、ワイバニア兵の鼓膜を叩いていた。
「メルキド兵を食い止める!撃ち方用ー意!!」
司令部大隊長のバルトホルト・フォン・ボーラーが兜の下から見える長く白いあご髭を揺らして号令した。第一軍団に属して40年になる歴戦の大隊長は一片の臆面も見せず、剣を引き抜き頭上に掲げた。
「放てぇ!!!」
周囲の音をかき消すほどの音量で、バルトホルトは叫び、剣を下ろした。バルトホルトの号令とともに400本の矢の雨がメルキド騎兵隊最前列に降り注いだ。