第四章 決戦前夜 第十六話
「ばかな・・・・・・こんな馬鹿なことが・・・・・・」
ハイネ率いるワイバニア第一軍団の前に、ボルガはなす術がなかった。
「敵軍の7割を撃破しました。少しばかり、敵軍に同情しますな」
エルンストは狼狽する敵軍を見ながら言った。彼の遥か前には第三陣の重装歩兵達が今か今かとハイネの命令を待っていた。
龍将三十六陣”月牙”鶴翼陣形で包囲した敵軍に次々に新手を繰り出して倒していく。その様はさながら欠けていく月のように見え、最後には三日月のようになりながら壊滅する様からその名がついた。ボルガ隊も過去に月牙にかかった敵と同じように陣形を蚕食され、破壊されていった。
「ボルガ隊を救え!敵軍を側面から攻撃するのだ」
ヴィヴァ・レオは左翼のボルガ隊を助けるべく、ワイバニア軍に側面攻撃を仕掛けた。鶴翼陣形は側面からの攻撃に弱い。ヴィヴァ・レオはそこをついたのである。しかし、ハイネも当然のことながら、このことを予期しており、第二、第三歩兵大隊を使って、重厚な防御陣を敷いてメルキド軍に対応した。
「よし、どうやら敵の攻撃は食い止められたようだ。第一重装歩兵大隊突撃!敵軍左翼にとどめをさせ!」
ハイネは重装歩兵大隊を突撃させた。強固な鎧と長槍で武装した重装歩兵が瀕死状態のボルガ隊に雪崩をうって襲いかかった。その凄まじい力の濁流に、ボルガ隊の兵士達はことごとく討ち取られていった。
「これが・・・・・・ハイネ・フォン・クライネヴァルトか・・・・・・ふふ、憎い男よ」
これがボルガの最後の言葉だった。この言葉を発した直後、陣幕を破ってボルガの眼前に紅の鎧を来たワイバニア重装歩兵が姿を現した。