第四章 決戦前夜 第十五話
「また、敗れると言うのか・・・・・・あの男に・・・・・・」
ボルガは膝をついた。一度命を助けられた相手に命を奪われるとは何と言う皮肉なことか。ボルガは低く笑った。
「軍団長・・・・・・あれは、どうやら、ベリクリーズ要塞の敗残兵のようです」
エルンストはハイネに言った。ハイネは一瞬だけ目を伏せた。一度助けた相手を倒すのは、ハイネですら気のすすまないことだった。ハイネは愛剣をゆっくりと鞘から引き抜くと、高く頭上に掲げた。
「エルンスト・・・・・・私は一度彼らの命を助けた。だが、二度目はない。我々は軍人だ。目の前の敵が再び我々に牙を向けるのであれば、容赦はしない。倒すまでだ。だが、彼らには我らの力を見て死んでもらおう。せめてもの手向けだ。・・・・・・龍将三十六陣、”月牙”発動。全軍、攻撃開始!」
ハイネは高く掲げた剣を一気に振り下ろした。鶴翼の陣、左翼に配置された弓兵大隊から一斉に矢が放たれた。連射力に優れたロングボウから放たれた矢は一分間に数千本にもおよび、メルキド兵をことごとく突き刺していった。
「逃げろ!後ろだ!後ろに・・・・・・」
矢の雨に堪えられず後方に離脱しようとしたメルキド兵が凍り付いた。彼らの側面から凄まじい勢いで騎兵が襲いかかってきたのである。最初の弓兵の一撃で戦意を喪失していたメルキド軍は戦場に屍の山を築いていった。
包囲されてから一時間も経たないうちにボルガ隊は7割に近い損害を出していた。