第四章 決戦前夜 第十二話
「さすがは、メルキド最高の将、ヴィヴァ・レオの布陣だ。つけいる隙がなさすぎる」
馬上から、ハイネは彼らの前に立ちふさがるメルキド軍とアーデン要塞の威容を見て言った。
「そうですな。峡谷を背にしての鶴翼陣形、まさに鉄壁と言えます。加えて要塞のクロスファイアポイントに我々が誘い込まれれば・・・・・・我々とて、全滅しかねません」
ワイバニア第一軍団参謀長のエルンスト・サヴァリッシュが傍らのハイネに言った。
「貴公の言う通りだ。あの布陣を崩すのは容易ではない」
ハイネは顎に親指を添えて考え込んだ。
「・・・・・・あの、すみません。僕、いえ、私はどう動けば良いでしょうか?」
副将として第一軍団に帯同してきた第十二軍団長のヴィクター・フォン・バルクホルンがハイネに尋ねた。ハイネは初々しいヴィクターの態度に微笑むと、ヴィクターに返した。
「貴公には悪いが、今回は私のわがままを通させて欲しい。第十二軍団は第一軍団後方で臨戦態勢のまま待機。ただし、必要であると判断したときには、戦線に加わることを許可する。後方で、我が軍団の戦いを見て、後学に活かせ」
「はい!」
尊敬する先輩の軍団長に言われ、ヴィクターは紅潮して言った。後輩とは可愛いものだ。ハイネはいつになく優しいまなざしをヴィクターに向けたが、すぐにかぶりを振って、前方を見据えた。ベティーナと同じような思考を持つことがハイネ自身には許せなかったのである。
「バルクホルン軍団長は直ちに第十二軍団と合流!我々はこれより、敵第一軍団と交戦する。敵はメルキド最強軍団。気を締めてかかれ!第一歩兵大隊を戦闘に魚鱗の陣を形成し、中央突破をはかる!!」
真紅のマントと金色の髪をなびかせて、ハイネは号令した。ハイネの背後では威風堂々と、真紅の龍の旗印が風にたなびいていた。
星王暦2183年6月13日午後1時、第二次アーデン盆地の戦いが幕を開けた。