第四章 決戦前夜 第十一話
「ついに始まるか。全面対決が」
ワイバニアの大軍を目の前にして、メルキド軍第一軍団長のヴィヴァ・レオは言った。
「はい、この間の戦いは奇襲でしたからなぁ」
傍らの参謀長のブリオンが悠然と言った。
「奇襲も戦いのうちだぞ。参謀長。さて、この狭い盆地だ。大軍の運用はできまい。どう出るか。ワイバニア軍」
ヴィヴァ・レオは盆地を埋め尽くす大軍に視線を移した。アーデン盆地は非常にせまい盆地であり、三個軍団を並べれば、たちまちのうちに動けなくなる。先だってワイバニア軍が長蛇の陣をとって移動した理由がここにあった。そして、それはメルキド軍の唯一にして最大の勝機でもあった。ワイバニア軍はその地形上、せいぜい二個軍団ずつでしか展開出来ない。そこをメルキド軍が要塞と連携して各個撃破することで、ワイバニア軍の兵力を減らし、さらに時間を稼ぐというのが、メルキド軍の基本戦略であった。
「まぁ、うまくいくといいがな」
ヴィヴァ・レオは小さくつぶやいた。病的なまでに慎重になったワイバニア軍がメルキド公国の最強軍団を相手に、生半可なレベルの軍団長をぶつけるわけがない。初手から最強の軍団を投入してくるに決まっている。ここが正念場だろう。ヴィヴァ・レオは腹を据えた。
「……ん? 敵に動きがあるな」
双眼鏡越しにワイバニア軍の動きを見ていたヴィヴァ・レオは敵軍から二個軍団が突出してくるのを確認した。その旗印を見たヴィヴァ・レオは手で顔を覆った。
「どうしましたか? 軍団長」
ブリオンがヴィヴァ・レオに尋ねた。ヴィヴァ・レオは無言で双眼鏡を手渡すと、前方を指差した。
「真紅の龍の旗印……第一軍団ですか。敵さんも奮発してきたというわけですな」
ブリオンは軍団長の行動の意味を理解した。
「まぁな。楽な戦いはないと思っていたが、考えられうる最悪の事態の一つだ」
「しかし、我々とて、メルキドの最強軍団。互角の戦いができましょう」
「……だと、いいがな」
ヴィヴァ・レオは迫り来るワイバニア二個軍団に視線を戻した。激突の時が刻一刻と迫りつつあった。