第四章 決戦前夜 第九話
星王暦2183年6月2日、フォレスタル王国第五軍団長ヒーリー・エル・フォレスタル率いるメルキド公国増援軍はシンベリン王城を出撃した。途中で合流する第三、第四軍団主力を合わせると、総兵力は四個軍団、約4万名フォレスタル王国正規軍の8割以上になる数だった。
「これほどの大軍を率いていても、ワイバニア軍には遠く及ばない。国力の差というものを思い知らされるな」
メルキド公国に向かう馬車の中で、ヒーリーは参謀長のメアリに言った。
「珍しく弱気というか、不安みたいね。司令官の弱気は軍全体の士気にも影響するわよ」
鋭い眼鏡をかけた冷静な参謀長はぴしゃりとヒーリーに言った。
「わかっているさ。メアリ」
「けれど、目は死んでいないわね。不安そうな顔をしているけど、策はないわけじゃないでしょう?」
「よくわかるな」
「あなたとは長い付き合いですからね」
そう言うと、メアリは書けていた眼鏡を上げた。
「まぁ、策はない訳じゃないよ。ただ、ちょっとね」
ヒーリーはメアリを呼び寄せると、そっと耳打ちした。
「ちょっと・・・・・・それ、本気?」
メアリは目を見開いて言った。
「誰にも、特に他の軍団長には言うな。今のところ、知っているのは君と俺だけだ」
「間に合うの?」
「だから、時間が必要なのさ。メルキドのヴィヴァ・レオ軍団長がうまく時間を稼いでくれるといいのだけれど・・・・・・」
ヒーリーは馬車の窓越しに空を見上げた。最前線はどうなっているだろうか。メルキド軍最高の軍団長であるヴィヴァ・レオですら、ワイバニア11個軍団の前では分が悪すぎる。メルキドに入るときにはできるだけ詳しい情報が欲しい、ヒーリーは空に思いを馳せながら、ワイバニア帝国に打ち克つ算段を考えていた。