第四章 決戦前夜 第七話
「すごーい!!」
息を飲むほどの美しい光景にポーラは思わず叫んでいた。
「こんなに高くヴェルと昇るのは初めてじゃないか?ポーラ」
ヒーリーはポーラに聞こえるように大きな声で話した。
「うん。いつもはお城の上だけだったから」
ポーラもヒーリーに聞こえるように大声で言った。
「そりゃいいな。ヴェル、もっと遠くへ行こう!!」
ヴェルは甲高い鳴き声を上げると、両方の翼を羽ばたかせて加速した。空を飛び、風を切るのは当たり前のはずなのに、ヴェルはことのほか上機嫌だった。大好きな二人をその背に乗せているからか、ヴェルにはよくわからなかったが、それでもヴェルは心底気持ち良さそうに空を飛んでいた。
「ねぇ、ヒーリー。あれは!?」
ポーラが指差した先には海のように広大な水のかたまりがあった。
「あぁ、あれがガスパール川だよ。ポーラは見たことはないのか?」
ヒーリーはポーラに言った。フォレスタルの国力の源、そしてかつてメルキドとフォレスタルがその利権を争った大河、ガスパール川だった。数週間後にはヒーリー達はあの川を渡ってメルキドへと行くことになる。
「うん。私はシンベリンから出たことはなかったから」
「そうか。今度・・・・・・」
「色んな場所に連れて行く」といいかけて、ヒーリーは口をつぐんだ。ワイバニアとの戦いは厳しく、ヒーリーとて命の保証はなかった。だからこそ、ヒーリーはポーラを空の旅に連れ出したのである。後悔しないために。
「なぁ、ポーラ・・・・・・」
「ヒーリー!!あれ見て!!きれい・・・・・・」
ポーラに言われて、ヒーリーは眼前の景色に視線を移すとその光景に目を奪われた。夕日がガスパール川に沈もうとしていた。空は夕焼けのオレンジ色に染まり、対岸が見えぬ程の幅を持つ大河は日の光を反射して金色に光り輝いていた。夜の闇が支配する直前、そのわずかな間の一日の最後のひと光。あまりに美しく、そしてあまりに寂しげな光をヒーリーは見つめていた。