第四章 決戦前夜 第二話
「船上の和約に基づき、貴国に対し援軍4個軍団を派遣することを約束しよう。ひと月以内に貴国の軍と合流すると伝えられよ」
ジェイムズは特使に言った。
「ありがとうございます。必ずや、我が総帥にお伝えいたします」
「すぐにお伝えになるがよろしかろう。龍騎兵を用意する故、直ちにメルキドへ戻られよ」
ジェイムズの言葉に使者は深く一礼すると、足早に謁見の間を辞した。謁見の間には、軍団長と王太子エリク、宰相マクベス、そして国王のジェイムズが残っていた。軍の最高責任者であるエリクは言った。
「派遣する四個軍団はすでに決めている。第一、第三、第四、第五軍団だ。再編中の第二軍団は北方のハムレット要塞で、ワイバニアのフォレスタル侵攻に備えてくれ」
ハーヴェイは何も言わずに頷いた。
「メルキドへの増援軍の総司令官だが……ヒーリー。お前にやって欲しい」
エリクの一言に、ヒーリーは目を見開いた。だが、驚きを言葉に出したのは違う人間だった。
「どうしてですの? お兄様……いえ、王太子殿下。今までの例と実績において、第一軍団のピット卿が適任ではありませんの?」
第四軍団長のマーガレットが声を荒げた。
「ははは、わしを買ってくれるのはありがたいがの。マギーや。そろそろ、わしも年なのでな。肩が凝る役目は卒業したいのだよ」
ピットは笑ってマーガレットに言った。マーガレットは少し不満そうな顔をして引き下がった。
「今回、ワイバニアによるメルキド侵攻を最初に予見したのはヒーリーだ。それに、新編成の第五軍団では、まだ実戦にたえられるか分からない。第一、第三、第四軍団を主力とし、戦局全体を見渡し、指揮出来る人減が必要になる。ピット卿、無理を強いることになるが、お許しください」
エリクはヒーリーを総司令官に選んだ理由を説明すると、ピットに頭を下げた。




