第四章 決戦前夜 第一話
ヒーリーが謁見の間に着いたとき、諸将らはすでにメルキドの特使を迎えていた。
「遅いぞ! ヒーリー」
第三軍団長のウィリアム・バーンズがヒーリーに言った。
「しょうがないだろう。これでも、急いできたんだから」
長く伸びた翡翠色の前髪をかき分けて、ヒーリーはため息をついた。
「さて、諸将も集まったことだ。メルキドの特使に現状を教えていただくとしよう」
進行役の王太子エリクが特使に発言を求めた。
「現在、ワイバニア帝国軍は国境のアドニス要塞群を陥落させ、公都ロークラインに迫りつつあります。我が総帥スプリッツァーはロークラインを放棄し、奥地のミュセドーラス平野にて決戦を挑もうとしております。どうか、船上の和約に基づき、援軍の派遣をお願いいたします」
現在のメルキドの状況を伝えると、特使は深くひざまずいた。
「ワイバニア国境から公都ロークラインまではひと月もかからない距離だ。我々とて、今から出撃したのでは、メルキド軍との合流までひと月はかかる。間に合わないのではないか?」
第二軍団長のハーヴェイ・ウォールバンガーが特使に尋ねた。
「公都ロークライン北方のアーデン要塞に我が軍の軍団長の一人がこもり、時間を稼ぐ手はずになっています」
「恐らく、ヴィヴァ・レオでしょう。ワイバニアの大軍相手に長い時間を稼げるのは彼しかいない」
ヒーリーは言った。
「援軍を出すのは条約からして当然じゃろうが、問題は規模じゃ。どうするかのう。王太子殿下、国王陛下」
第一軍団長のフランシス・ピットが玉座に座る国王ジェイムズとその傍らに立つエリクを見た。エリクとジェイムズは顔を見合わせると、互いに頷いた。