第三章 メルキド侵攻 第五十四話
「レイがアルレスハイム卿の副官だなんて……考えただけでも寒気がするわ。ヒーリー、あなた、何を考えているの?」
二人きりになった執務室で、メアリはヒーリーに尋ねた。
「あいつはただ女に軽いだけの奴じゃない。それはアンジェラも分かってくれるさ。それに観戦武官として、メルキドとワイバニアの最新の戦術を見聞しているレイは、アンジェラと部下達の橋渡し役としては適任だよ」
ヒーリーはメアリにレイをアンジェラの副官に選んだ理由を教えた。メアリは眼鏡を上げると少し皮肉った笑みを浮かべて言った。
「ふぅん。ずいぶん彼のことを買っているのね。私のことは最初、軍団に入れようとしなかったのにね」
「ははは……それは、その……」
ヒーリーは苦笑した。そのとき、強くヒーリーの執務室の扉をノックする音が聞こえた。
「どうした?」
「メルキドから特使が参りました。ジェイムズ陛下とエリクシル殿下より、各軍団長はただちに謁見の間に集合せよとのことです!」
ノックの主はヒーリーに軍団長の非常召集命令を伝えた。
「わかった。すぐ行く」
ヒーリーは椅子から立ち上がると、メアリは心配そうな面持ちでヒーリーを見た。
「ヒーリー……」
「ついに来たか。ワイバニアめ……」
ヒーリーは歯を食いしばって言った。星王暦二一八三年六月一日フォレスタル王国はワイバニア軍によるメルキド侵攻をこの日初めて知った。