第三章 メルキド侵攻 第五十二話
「そうです。第五軍団の第三機動歩兵大隊と第一騎兵大隊を合わせて一個連隊とし、これをあなたに率いて欲しいのです」
驚くアンジェラにヒーリーは頷いた。
「私を客将としてこの軍団に迎えられたときも、ヒーリー殿は軍団内の反発にあったと聞いております。この上、さらに私に兵を預けるのでは、さらに反発が起きるのではないでしょうか?」
ヒーリーの隣に立つメアリを一瞥して、アンジェラは言った。アンジェラを客将に迎えた時、軍団の主立った指揮官達はヒーリーに反発した。先のオセロー平原の戦いにおいて、フォレスタル軍に最も大きな損害を与えた軍団長であるアンジェラに対する風当たりはメアリはともかくとして、戦友を失った前線指揮官達のそれは特に大きかった。
ヒーリーは指揮官や兵士達を自ら説得し、アンジェラを軍団を入れることを認めさせた。
「わかっています。しかし、あなた以外にこれを預けられる者はいないのです」
一個軍団を率いていたアンジェラの手腕はヒーリーにとって、何よりも力強いものだった。また、配下の大隊長は皆優秀ではあったが、一個大隊以上を指揮しうる能力までは持っていなかった。唯一、副軍団長のアレックスだけがその資格を有していたが、龍騎兵大隊長でもある彼が、空陸双方を指揮するのは困難であったため、アンジェラが連隊長として選ばれたのだった。
「隊長や兵達については今回も私が説得します。何、今回は前ほど難しくはないでしょう。力強い味方もいますから」
ヒーリーはメアリに目配せすると、メアリは隣室から一人の背の高い、美男子の士官を連れてきた。士官はヒーリーと、アンジェラの前に立つと敬礼した。
「第五軍団司令部直衛大隊参謀本部付次席参謀、レイ・ロックハートです。本日付けでアルレスハイム連隊副隊長兼参謀につくよう拝命いたしました。……よろしく」
名乗り終えるとレイはウィンクした。その振る舞いにメアリは青筋を立てて怒り出した。
「レイ! そのような振る舞いはやめなさいと何度も……」
「いいじゃないの。この場にいるのは士官学校の同期じゃないか。お固いことは言いっこなしだよ。な、ヒーリー」
「あぁ」
ヒーリーはレイに笑って頷いた。
「あなたも、何でこんな軽い男を軍団に入れたの? 士官学校を卒業して、やっと解放されたと思っていたのに……」
メアリは頭を抱えた。
「これは……いったい?」
場の雰囲気についていけなかったアンジェラが、ヒーリーに尋ねた。