第三章 メルキド侵攻 第五十一話
一同は頷くと、会議を解散し、すぐに進撃の準備をはじめたが、勅令によってベティーナ案は却下された。
「軍団長どもは、余を殺す気か? 進撃速度を速めれば、余がますます危険にさらされるではないか。盆地を調べ尽くせ! 余の安全を確保しながら進むのだ」
意識を取り戻したジギスムントはベティーナ案を聞くとすぐに怒り出し、配下の各軍団に慎重な行軍を徹底させた。常に上空には龍騎兵を飛ばし、前方はおろか、左右にも、安全が確認されている後方にさえも見張りの部隊を展開させ、メルキド軍の奇襲に備えた。その徹底ぶりは病的とも言えるほどであった。
「敵もやるものだ……」
ヴィヴァ・レオは呆れ顔で言った。アーデン盆地上空をひっきりなしに飛び回る龍騎兵はアーデン要塞からでもよく見て取れた。
ヴィヴァ・レオの策は見事に功を奏した。ワイバニア軍はアーデン盆地での緒戦によって見事なまでに進撃速度を落とし、通常2日で通過出来るはずのアーデン盆地を一週間かけても、なお通過出来ずにいた。
「スプリッツァー達との約束を守れそうだ」
メルキド最強の軍団長は静かに自分の作戦の成功を喜んだ。
星王暦二一八三年六月五日、ワイバニア軍は未だアーデン盆地の中央にいた。
時を前後して星王暦二一八三年六月一日、フォレスタル王国に亡命していたワイバニア軍元第七軍団長アンジェラ・フォン・アルレスハイムはフォレスタル王国第三王子にしてフォレスタル第五軍団長ヒーリー・エル・フォレスタルに呼び出されていた。
「私を指揮官に……ですか?」