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第三章 メルキド侵攻 第四十話

アーデン要塞はもともと、防衛拠点として他の要塞に比べて多くの兵士が駐留出来るように作られているが、地理的な状況を鑑みても、一個軍団の収容が限界だった。加えて、身一つで要塞にやってきた5,000人分の武器、武具を用意しなければならず、第一軍団がやってきたときには要塞の物資の備蓄はそこを尽き始めていた。ヴィヴァ・レオも長期戦に備えて、多くの物資をかき集めてきたが、2万の兵ではじきに限界に達するであろうと予想された。


実際のところ、ワイバニア軍は寛容さと慈悲だけで捕虜を解放した訳ではない。大勢の兵を捕虜にしたのでは、ワイバニア軍の物資が先に尽きてしまう。しかし、解放して砦なり、要塞なりに立てこもって戦った場合、彼らが敵の物資を食いつくし、戦局を有利に運んでくれる。マレーネやハイネが捕虜を解放したねらいは実はそこにあった。


「ひと月保つかどうか・・・・・・バクチだな」


ヴィヴァ・レオは当初の作戦案を練り直す必要に迫られていた。


星王暦2183年5月26日、ワイバニア軍最先鋒の第一軍団がアーデン盆地の入り口にさしかかろうとしていた。


「これは・・・・・・聞きしに勝る光景だな」


第一軍団長のハイネは思わず息を飲んだ。ハイネの眼前には垂直に切り立った絶壁が東西数十kmに渡ってそびえ立っていた。”グレート・ウォール”と呼ばれる大絶壁である。遥か太古、伝説の時代、神々と人間が相争っていた時代、神の一人が山脈を神剣で切り裂いたと言われている交通の難所だった。


「神が切り裂いた絶壁。・・・・・・まったく、我々がどれだけ小さな存在かを思い知らされますな」


「そうだな・・・・・・」


ハイネは副官兼参謀長のエルンストの言葉をやや自嘲気味に笑った。若くして帝国の軍団長の位にもついた。慢心はないが才幹について自負はある。だが、目の前に存在する絶壁はそんな己すら、とるにたらない存在だと感じさせてしまう。神のいや、自然の何と言う偉大なことか。ハイネは自然に対する畏敬の念と言うものを久しぶりに感じていた。


「後方の軍団と陛下に報告せよ。第一軍団はアーデン盆地に到着したとな」


ハイネは部下に命じると再びグレート・ウォールに視線を戻した。もの言わぬ絶壁は万を超える軍勢を静かに、そして冷然と圧し続けていた。

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