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第三章 メルキド侵攻 第三十八話

「とにかく、いらぬ」


「本当に? 補給物資だって、なかなか甘い物は届けないだろうし、いいの? ハイネ君」


「くどい!」


ハイネにとっては悪魔のささやきにしか聞こえないベティーナの一言を一喝し、ハイネは自軍の宿舎に戻ろうとしたが、一人の男に道を塞がれた。


「あ、すみません! すみません! クライネヴァルト軍団長! ベティーナさん。お久しぶりです」


第十二軍団長のヴィクター・フォン・バルクホルンがベティーナに声をかけてきた。ハイネは帰るタイミングを失したとシラーの隣で二人のやり取りを見守ることにした。


「久しぶり、ヴィクター君。軍団長としてはわたしの方が後輩ね。よろしくご指導お願いします。先輩」


「いや、僕なんて、その……全然、ひよっこですから。先輩の軍団長なら、そこに、クライネヴァルト軍団長という、立派な軍団長がいるじゃないですか」


「だめよ。ハイネ君、わたしに冷たいんだもの。その点、ヴィクター君は殊勝で立派だわ。はい、ご褒美にお菓子あげるね」


ベティーナはヴィクターに菓子袋を手渡した。


「ありがとうございます。あ、ケルンのお菓子じゃないですか! 僕、ここのお菓子好きなんです!」


「よかったわ。ヴィクター君が喜んでくれて。ところで、ハイネくーん。ハイネ君も好きだよね。ケルンのお菓子」


ベティーナはハイネに見せつけるように菓子袋を振った。


「新製品なんだけどなぁ。これ。ヴィクター君にあげようかなぁ?」


「え? クライネヴァルト軍団長がお好きなら……」


ヴィクターが言いかけた刹那、ハイネは顔を真っ赤にさせてベティーナが持っていた菓子袋を奪い取って言った。


「誰にも……言うな……!」


ハイネは振り返ることなく、長く伸びた金髪と真紅のマントを翻してテントを出ていった。十二軍団最年少の軍団長は普段の冷静な第一軍団長のギャップに目を白黒させていた。


「クライネヴァルト軍団長のあんな顔、はじめて見ました……」


「そう? わたしの前じゃ普通よ」


「先輩が特別すぎるんですよ。俺の前だって見せませんよ。ハイネのあんな顔」


シラーがあきれ顔で言った。


「先輩も、軍団長になったんだから、少しはあいつをからかうの止めた方がいいですよ。部下達に示しがつきませんからね」


シラーは柄にもなく恐ろしいほど真面目なことを先輩に忠告した。


「えー。面白いんだけどなぁ。ハイネ君をからかうの」


ベティーナはむくれ顔をするとシラーに不平を言った。


「だめです。さぁ、行きましょうか。部下達に挨拶をしなくてはならないし」


そう言うと、シラーはベティーナの手を引いてテントを出て行った。


「……えへへ」


テントの中に一人残されたヴィクターはケルンの菓子袋を抱きしめた。久しぶりに故郷のベリリヒンゲンの味が食べられる。少年の面影を残した若き軍団長はひそかに微笑んだ。


星王暦二一八三年五月二十一日午後、補給と戦力再編を終えたワイバニア軍はメルキド公都ロークラインに向けて、再び進軍を開始した。


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