第三章 メルキド侵攻 第三十五話
就任式を終えた二人は、先輩となる軍団長たちと挨拶を交わした。新しい仲間を歓迎するもの、冷淡な対応をするもの、軍団長の対応はそれぞれだったが、おおむね、二人の就任を良く思っているようだった。ひととおりの挨拶を終えたシラーはハイネに話しかけた。
「久しぶりだな。ハイネ。カルデーニオ要塞を落とした手腕。さすがだな。親友として、尊敬の至りだ」
「賞賛の言葉、ありがたく受け取っておこう。それにしても、お前が第三軍団長になるとは、正直驚いた。よくシュティルナー閣下が許したものだ」
ハイネはシラーに言った。シラーが第三軍団長になれたことはハイネにとっても驚くべきことだった。それは、シラーに軍団長たる資格がないと言うことではなく、シラーの上官が彼を手放すはずがないと考えていたからに他ならなかった。
ワイバニア帝国軍の組織は正規軍である十二軍団と地方都市の治安維持、反乱征討を目的とする地方軍の二つに分かれる。地方軍は左元帥直轄の組織であり、その下に東西南北を守護する方面司令官と方面軍が存在する。方面司令官の地位は軍団長と同格とされ、人格、能力ともに相応しい人材が配置されていた。シラーが属していた北方方面軍は地方軍の中でも最大の勢力を誇り、ロウィーナ守備隊長兼北方方面軍司令官アウグスト・シュティルナーは上位軍団長にも匹敵する能力の持ち主だった。
しかし、優秀な能力とは裏腹に、シュティルナーは頑固者で知られ、気に入った部下や子飼いの部下は、例え元帥の命であっても転属させないと言うことで有名だった。ハイネも他の軍団長もそのことを知っていたので、シラーが軍団長として昇進、転属するいうことは天地がひっくり返るほどの出来事だったのである。
「お前のだらしなさにさしものシュティルナー閣下も辟易したのかも知れんな」