第一章 オセロー平原の戦い 第八話
「さて、明日は早いし、寝るか」
作戦会議が終わり、3人の隊長を見送ったヒーリーは明日に備えるべく、ベッドに潜り込んだ。ヒーリーが夢の世界への扉を開こうとしたその時、彼の耳にかすかにノックの音が入って来た。
「ヒーリー? 起きてる?」
音の主はポーラだった。ヒーリーは気怠そうにベッドから出ると、部屋のドアを開けた。
「あー。どうした、ポーラ?」
「ごめんね。起こしちゃって。けど……」
ポーラが目を横に向けると、廊下でメルが眠っていた。メルはポーラがかけたであろう毛布にくるまってすやすやと眠っていた。
「あの子、会議が終わるまでずっと待っていたみたいよ。……これ」
ポーラは魔術銃が入っていた鞄をヒーリーに手渡した。
「しまった……。メルにカストルとポルックスを届けさせるとラグが言っていたのを忘れてた」
ヒーリーは顔に手をやった。
「帰ったら、メルに謝っておくことね。この様子じゃ、出陣の時間にはまだ眠っているだろうから」
「あぁ、すまない。ポーラ」
ヒーリーは頭をかいてポーラに謝った。
「私にじゃなくて、メルに謝るのよ。それから、生きて帰って来てね。ヒーリー」
「なんだよ!? いきなり」
「私、今度の戦いが厳しいの知ってるもの……ヒーリーがいなくなったら、私……」
ポーラは今にも泣きそうな顔をしてヒーリーに言った。
「大丈夫。ポーラ。皆生きて帰ってくる。俺が皆を死なせない。こういうときしか、俺が頭を使わないのを知ってるだろう?」
ヒーリーは優しくポーラに諭した。ポーラはうつむくと、ヒーリーのお腹に抱きついた。その動きがあまりに急だったのと、ポーラの抱きついた勢いが強かったせいで、二人はバランスを崩して転んだ。
「あいたた……」
ヒーリーはポーラのタックルを真っ向から食らい、尻餅をついた。
「ヒーリー……」
ポーラはヒーリーの腹に顔をうずめたまま、顔を上げようとしなかった。
「なに?」
「お願い。もうちょっとだけ、こうさせていて……」
「はいはい……」
そう言うと、ヒーリーはポーラのショートカットの髪を優しく撫でた。
星王暦二一八二年六月四日、出撃前夜はこうして更けていった。