第三章 メルキド侵攻 第三十二話
アドニス要塞群から南に三〇キロ離れた平原、ここではワイバニア帝国軍が各地に分かれた軍団の合流と補給のため野営していた。
堅城、アドニス要塞群をわずか一日で陥落させたワイバニア帝国軍だったが、メルキド軍の抵抗は激烈であり、予想以上の損害を出していた。大隊長クラス以上の上級指揮官の戦死者はいなかったが、中隊長、小隊長クラスの指揮官の戦死者は数多く、戦力の再編に想定以上の時間を割くことになった。
ワイバニア軍の野営地の中で、ひと際南に位置する第一軍団の野営地、その中央にある軍団長専用のテントの中で、第一軍団長のハイネ・フォン・クライネヴァルトは手紙を書いていた。
「軍団長、よろしいですか?」
テントの外で、副官兼参謀長のエルンスト・サヴァリッシュの声が聞こえた。ハイネはペンを置くと、エルンストを中に入れた。
「どうした? こんな夜更けに」
「皇帝陛下からの勅令です。明日、午前一〇時より新軍団長の着任式を執り行うため、各軍団長は集合されたし。第一軍団はその後、先鋒としてメルキド公国を南下、アーデン要塞を攻略せよ。とのことです」
表面では忠誠を誓っていても、内心では忌み嫌っている皇帝の勅令である。従うのには正直嫌気がさしたが、従わない訳にもいかなかった。ハイネは小さくため息をついた。
「分かった。謹んで勅令をお受けすると、使者に伝えよ」
「は……お手紙ですか?」
エルンストはハイネの机の上に視線を移した。