第一章 オセロー平原の戦い 第七話
大空を翔る翼竜にとって、広大な城など大した広さを持たない。わずか二、三分の飛行で、ヒーリーとヴェルは兵士達の集結する広場に降り立った。
「ヒーリー殿下、近衛旅団弓兵大隊一〇〇〇名、攻城兵大隊一〇〇〇名、国王直属第一龍騎兵隊一〇〇〇名。集結いたしました」
エリクシルの命で副将をつとめることになった龍騎兵隊長、アレックス・スチュアートがヒーリーに報告した。フォレスタル王国にも、ワイバニアに比べて小規模であるが、龍騎兵隊は存在する。
アレックス・スチュアートはこの年、二八歳。金髪碧眼、隆々とした筋肉を持つ丈夫で、若年ながら確かな経験と、技量を持ち、史上最年少で龍騎兵隊長に任命された。槍術の達人として知られ、槍を手に携えての突進の優雅さと絶対的な強さは敵味方を問わず嘆息させた。
また、極めて真面目な性格で、規律を何よりも重んじ、自分だけでなく部下にも規律を守ることを徹底させていた。そのため、非常時でもない限り軍務をさぼってばかりのヒーリーとは何かと合わずにいた。
ヒーリーが軍を率いるに足る器かどうか、この戦で分かる。スチュアートは眼光鋭く、ヒーリーに目を光らせていた。
「ありがとう。スチュアート隊長」
ヒーリーは短く礼を言うと、設置された壇上に上がった。
「総司令官のヒーリー・エル・フォレスタルだ。諸君、我々は明朝、ワイバニア第十軍団迎撃のため出撃する。敵軍は精兵、名将数多く、強大だ。だが、我々は勝つ。皆が戻ってこられるように。皆で勝利の美酒を分かち合うために。そのために諸君、私に力を貸して欲しい」
ヒーリーが演説を終えたとき、あたりは静寂に包まれた。兵士の中から、その静寂をやぶり、一人拍手をするものが現れた。拍手は一人増え、また一人。最後には三千人の拍手になっていた。
「はたして、一個旅団の兵力で、ワイバニアに勝てますかな?」
演説を終えたヒーリーに弓兵大隊長のウォーリー・モルガンが尋ねた。立派な口ひげを生やした弓兵大隊長はヒーリーよりも威厳があった。
ヒーリーは応えた。
「あぁ、もちろんだ。各隊長は、夜七時に俺の部屋に来るように。今回の作戦について説明する。攻城兵大隊長はその前に、宮廷魔術師殿の研究室に行くよう、部下に伝えてくれ」
数時間後、ヒーリーの部屋に集められた隊長達は、ヒーリーの作戦案を聞いて驚いた。
「なんと、無茶な……」
モルガンがのけぞった。
「だが、これがうまくいけば、歴史が変わることになりますな」
攻城兵大隊長のジェイムズ・ローリーが言った。
「龍騎兵隊長の意見はどうか?」
ヒーリーはスチュアートに尋ねた。スチュアートは作戦案を聞いたあと、目を閉じて黙りこくってしまった。
数分の沈黙のあと、若き龍騎兵隊長は重く閉じた目と口を開いた。
「一龍騎兵として、殿下の策は現状において、最良だと考えます。いま少し、お許し願えるなら二、三追加したい案がございます」
そういうと、スチュアートは自分の腹案をヒーリー達に聞かせた。ヒーリーはスチュアートの提案にうなづくと、作戦の細部に変更を加えた。
午前〇時、三人の隊長が作戦内容を確認しあい、この日の作戦会議は終了した。