第三章 メルキド侵攻 第十六話
グレゴールがカルデーニオ要塞を落とす少し前、シモーヌ率いる第五、第七、第十二軍団はメルヒェン要塞を陥落させていた。
川の中州にあり、天然の要害であったメルヒェン要塞も空から舞い降りた龍の群れにはかなわなかった。三個軍団混成の龍騎兵隊三〇〇〇名の総指揮をとった第五軍団長ヴァルター・フォン・ブッフバルトは配下の龍騎兵に急降下波状攻撃を徹底させた。「歩兵は龍騎兵に弱い」堅実な勇将であるヴァルターはアルマダのルールそのままに攻撃を行なったのである。
空からの脅威を前にメルヒェン要塞の守備兵は果敢に防戦したが、メルヒェン守備兵の総兵力と同数の龍騎兵相手には分が悪すぎた。ワイバニアの龍騎兵達は城壁、要塞内にと、メルキド兵の死体の山を築いていった。
メルヒェンの守備兵が空に気を取られている隙に、要塞を包囲していたシモーヌ率いるワイバニア軍主力は一斉に包囲を狭め、要塞になだれ込んだ。
この空陸同時攻略作戦にメルキド側はあらがうことができず、戦闘開始からわずか4時間半でメルヒェン要塞は陥落した。これは謀略家としての評価しか得られていなかったシモーヌが、戦術家としても非凡な才能を有していることを証明した初めての戦いであった。
メルヒェン要塞攻略戦もまた、ワイバニア軍の勝利で幕を閉じた。
「終わったな……」
「えぇ。何とかね」
荒い息を吐いて、第六軍団長オリバー・リピッシュと第九軍団長マルガレーテ・フォン・ハイネマンは話した。二人の軍団長の頭上に見えるデミアン要塞の鐘楼にはワイバニアの旗がたなびいていた。