第三章 メルキド侵攻 第十五話
「ふむ・・・・・・そろそろしまいだて・・・・・・」
グレゴール率いる第四軍団も要塞内に攻め入っていた。グレゴールの的確な指示のもと、第四軍団は北側城壁の守りを無力化し、ごく少ない損害で城門の制圧を完了した。第八、第十一軍団の任務は城門の陥落までであったが、先任軍団である第四軍団は、さらに要塞司令部を制圧しなければならなかった。
メルキド軍カルデーニオ要塞司令官マッサリアは最終局面にたって、ようやく際立った采配を見せた。マッサリア率いる司令部戦闘員100名は巧みにワイバニア軍を分隊、または小隊規模で密室に誘導し、包囲各個撃破戦術を行なった。その巧妙さと攻撃の苛烈さは、グレゴールをして嘆息せしめるほどだった。
「ほほほ・・・・・・やりおるのう。じゃが、この手腕を最初から見せるものじゃったな。惜しいものじゃ」
グレゴールは、すぐさまマッサリアの戦術に対応した。歩兵一個大隊1,000名をもって、地下司令部に一気呵成に攻め込んだのである。守備側の10倍する兵力が狭い地下になだれこみ。メルキド軍は敵を包囲するどころか、逆に包囲され、一人、また一人、廊下や部屋を血に染めて死んでいった。
指揮官のマッサリアも槍を持ち、果敢に戦ったが、衆寡敵せず、命運尽きたと見ると、盛っていた短剣を取り出して自害しようとしたがワイバニア兵の縄に身体を絡めとられ、自害出来ぬまま。グレゴールの前に引き出された。
「お前が指揮官か?」
手足を縛られ地面に押さえつけられたマッサリアを、グレゴールは抜き身の剣のような鋭い眼光で見下ろした。
「殺せ!!」
大声で指揮をとり、戦い続けたマッサリアはしわがれた声で叫んだ。周りからはワイバニア軍の勝ちどきの声が聞こえ、その歓声がマッサリアの自尊心を何よりも深く傷つけた。
「質問に答えんか。お前が指揮官か?」
グレゴールはさらに殺気を込めて、マッサリアを睨みつけた。50年を超える戦歴と幾多の死線を越えてきたものだけが持ちえる強大なプレッシャー。マッサリアは口が聞けない程の恐怖心に襲われ、震えながらうなづいた。
「ほほほ・・・・・・正直で結構。何、安心せい。お前のような鼻たれ小僧を殺したところで儂の剣がさびるだけじゃ。連れて行け」
グレゴールは左右の近侍の兵に目配せすると、兵はマッサリアを引き立てて連れて行った。
「さて、これで仕事は果たした。他の要塞はどうなっているかのう・・・・・・」
陥落したカルデーニオ要塞の鐘楼のいただきにたなびくワイバニアの龍の旗を見上げ、ワイバニア最長の戦歴を誇る老将はつぶやいた。