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第三章 メルキド侵攻 第十四話

命が助かった。少年の目の前はこの瞬間、明るく輝いていただろう。故郷に戻れる。家族に会える。少年の心は喜びに満ちていた。不意に胸に鋭い痛みを感じた。少年には時が止まり、一瞬世界が暗くなったように思えた。少年が下を見ると、彼の身体からあり得ないものが生えていた。細く長いレイピアの刀身である。少年は驚き、ゆっくりと後ろを振り返った。


「あははは! ばっかじゃないの? 敵の兵士なんか、あたしが見逃すわけないじゃない!」


ザビーネは恍惚と狂気が入り交じった笑いを浮かべて言った。


「いい? ひとつお姉さんがいいこと教えてあげる……それはね、敵の言うことを信じちゃいけないってこと」


ザビーネは剣を握る手に力をこめ、少年の耳元でささやきかけた。ザビーネが剣を握り、動かす度、少年の目は恐怖と苦痛で見開かれた。


「あ……う……」


「ね、わかる? 肉が裂ける音、聞こえてこない? ザク、ザクってさ……」


ザビーネは苦痛のあまり声にならない声を上げる少年の口を押さえて、レイピアをゆっくり横に動かした。息をしようとする度に、少年は血を吐き、目からは涙が止めどなく流れ出て、ザビーネの手を汚した。


「ほら……心臓の近くまで来たのわかるでしょ?さぁ、これで本当にお別れね……」


最期の瞬間、少年の目が限界まで見開かれた。ザビーネの剣が心臓に達した瞬間、少年の目から生気が消え、糸の切れた操り人形のように力なく倒れた。


「うふ……あはは! あははははは! もう、最高! たまらない! あはははは!」


東側城壁最後の守備兵を殺したことで、ザビーネの悦びは頂点に達していた。生への希望に満ちた表情を絶望に変える。なんと気持ちのよいことか。兵士も若ければ、若いほどいい。少年兵など最高だ。馬鹿で、純粋で、こちらの言うことをすぐに信じるからたまらない。ザビーネは最高の獲物を殺せた悦びを噛み締め、いつまでも笑い続けていた。

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