第三章 メルキド侵攻 第十三話
「ぐぁ……」
メルキド軍の指揮官が倒れた。ザビーネは自分の鎧と同様に派手な装飾が施されたレイピアを指揮官の身体から引き抜くと、一振りして血のりを払った。
「これで終わり? 張り合いがないわね」
ヒッパーが西側城壁を陥落させたのと時を同じくして、ザビーネは東側城壁を陥落させていた。
東側城壁の守備兵達は矢を放ち、剣を振るい、ワイバニア軍と果敢に戦った。だが、それは兵士個人の心情の話であって、実際の戦況に関しては、非常に拙劣な戦いであったと言わざるを得なかった。
散発的に放たれた矢は、敵兵の身体に食い込むことはなく、剣を振るったところで、圧倒的な数のワイバニア兵に取り囲まれ、串刺しかなます切りにされた。東側城壁はザビーネ率いるワイバニア軍第十一軍団の虐殺の場と化していた。
城内に入ったワイバニア兵達は、彼らに戦いを挑む兵士も、逃げ惑う兵士も分け隔てなく殺し尽くした。流血に魅せられたワイバニア兵にとって、メルキド兵は格好の獲物だったのである。
「こっちはまだ殺したりないって言うのに」
不機嫌そうにレイピアを鞘に納めたザビーネは踵を返して歩き出した。すると、物陰から石の崩れる音がした。ザビーネは音の出所へ行ってみると、そこにはまだ、十四か十五歳くらいの少年がうずくまっていた。
「アンタ、メルキドの兵士?」
ザビーネは少年に尋ねた。少年はザビーネの問いにびくっと肩を震わせると、縦に素早く首を振った。
「まだ、ガキじゃない。こんなガキを戦場に出すなんて、とことん変な国ね。ここ」
恐怖で震える少年に構わず、ザビーネはため息をつきながらペラペラと少年の祖国の悪口を言った。
「まぁ、いいわ。見逃してあげるから、早く逃げなさい。ガキなんか殺しても、胸くそ悪いだけだしね」
ザビーネが少年に言うと、少年の顔色が変わった。まるで、女神でも見るような澄み切って輝いた目でザビーネを見上げた。少年は立ち上がると、ザビーネに礼を言って走り出した。