第一章 オセロー平原の戦い 第六話
「あ、いたいた! ヒーリー! やっと見つけた」
「ヴェル! それにポーラ!」
エメラルド色をした翼竜の背にはポーラが乗っていた。
「ポーラ。なんで君がヴェルの背中に乗ってるんだ?」
ヒーリーは不満そうにポーラに尋ねた。
「だって、私がヒーリーを探してたら、ヴェルが乗せてくれたんだもん。ねぇ?」
ポーラがヴェルに同意を求めると、ヴェルは短く鳴き声を上げた。
「この裏切り者!」
ヒーリーは、美しき翼竜に言った。
ヴェルは世界でも珍しいエメラルドワイバーンと呼ばれる翼竜だった。高い知性とエメラルド色の美しい体が特徴で、この世で最も美しい動物の一つに数えられていた。
ヴェルは仔龍のときに親とはぐれてしまい、たまたま父親の狩りについて来ていたヒーリーに拾われた。以来、ヒーリーと共に長い時間を過ごして来た。
エメラルドワイバーンは誇り高い性格でも知られ、ヴェルもまた、ヒーリーを含め、数少ない人間にしか心開かず、自分の背に乗せるのも、ヒーリー以外に許すことはなかった。ヒーリーにしてみれば、ヴェルの気まぐれとは言え、ポーラをのせるのは、納得がいかないことでもあったのだった。
そんな事情も知らず、ポーラはヒーリーに連絡した。
「ヒーリー。マクベス様からのご伝言よ。武装の件の手配は終わったって。それから、近衛旅団からの選抜兵が集合したから、広場に来てくれって」
「わかった」
そう言うと、ヒーリーはヴェルの背中に乗った。
「ヒーリー。魔術銃はあとで部屋までメルに届けさせるよ。あと、例のものは攻城兵隊長にとりにこさせるように連絡しておいてくれ」
「わかった。……ヴェル!」
ヴェルは甲高い声を上げると翼を羽ばたかせ、一気に空まで舞い上がった。ヒーリーとヴェルの眼下には突風に耐えるポーラ、メル、ラグの姿があった。