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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
9/55

過去――

「お待たせ、ノアス君。きちんと鉱石取ってくれたみたいだね」


「……ああ」


「どうしたのノアス君?」


「まさか魔術を使うとはな」

「あーいつもそれには驚かれるんだよね。自分で言うのも嫌なんだけど、呪児であったから授かった才能なのかもね。もしかしたら」



 エリィはえへへと笑みを浮かべる。



「普通は十年以上かかると言われているけど誰かから教わったのか?」


「うん。師匠からね。二か月前に出会ったんだけど、凄くいい人で強いんだ!」


「たった二か月で会得したのか……」流石のノアスも何と口にして良いか分からなかった。「その師匠も魔術を使えるのか?」


「うん! 基礎は使えるみたい」


「……二か月しか一緒にいないのに、随分信頼を置いているんだな」



 そう言ってからノアスは既視感を覚えた。



「だってダンジョンの世界に飛び込んだばかりで右も左も判らないわたしを一から教えてくれて、こんなわたしに同情とかしないで同じ目線で見てくれるの。そう言った人少ないからさ、わたしにとって大切な人なの。お母さん的な……? あははは!」



 両手を絡ませて嬉しそうにエリィは話す。その後我に返ったのか、照れくさそうにまた違う笑みを浮かべた。



「そっか」母のような存在……。もしノアスにも母に近い存在がいるとするならばそれはラリムであろう。「必要な材料も集まった事だし帰るぞ」



 ノアスは一刻も早く帰りたかった。エリィと過ごすと身体に纏わりついた過去の過ちが洗い流されている気がしてならなかった。


 そしてそんな事で薄れさせようとする自分に憎しみのようなものをノアスは覚える。



「もう少しノアス君とダンジョンに潜りたかったけど、仕方ないか。材料も手に入ったし帰ろうか」



 残念そうに少しばかり落ち込むエリィであったが、ノアスの事情も配慮しており、ノアスの言葉を受け入れた。


 鉱石を袋の中にしまって背負うノアス。そしてオーガの一部を回収し、二人は来た道を引き返すことに。



「そう言えば、さっき師匠と出会って二か月って言ってたけど。てことはお前のリミットは」


「せいかーい。わたしのリミット……寿命は」エリィは袖をまくって腕をノアスに見せた。「わたしは後十か月。まあまだ余裕はあるかな。ノアス君は?」



 ノアスは見せるか悩んだが、自分から話した内容なので袖をまくった「俺は後半年だ」



「半年かぁ。わたしより四か月も先輩なんだね。どちらもまだ焦る時期ではないね」


「焦るか……そうかもな」確かにリミットだけを見ればまだ冷静さを保てる数字だろう。「リミットが数日しかない奴はどう行動に出るんだろうな」


「人って追い詰められたら読めないよね。わたしだったらきっと無茶しちゃうと思うなぁ。だって泣いても笑っても数日後には死ぬんだよ。しかも正確な日にちまで書かれてるし、周りが見えなくなると思うなぁ。そうはなりたくないね」



 エリィは苦笑いを浮かべ、ノアスは感情の無い表情で一つ息を吐いた。



「そう言えばさ、噂なんだけど五階層に本来いない魔物が目撃されてるんだよね。なんか七階層から来ちゃったとか。それで最近五階層に来る人も少なくなっているんだって」


「七階層、か。確か七、八階層は群れを作る奴らが多かったよな」



 ダンジョンは階層ごとに生息してる魔物が違う。


 なので階層ごとに特徴がある。


 例えば五階層ならオーガのような比較的大きめで一撃が重い魔物が多く生息している。逆に七階層、八階層は群れで生活する習性を持つ魔物が多い。


 もちろん階層が高くなる程、魔物のレベルは高くなるので、群れと言っても一体一体の個体はもちろん強力である。



「そうそう。しかも繁殖力が高いらしいからね。全体的に。いつも八階層辺りに行くと囲まれないように気を使うよ。まあ、でも迷い込んだ魔物は一体らしいし、流石に生態系崩壊までは行かないと思うけど」



 エリィがそう言い終えた時だった。



「うわあああああああああああああああああ!!!!!!」


「「……!?」」


「何今の?」



 突如、ダンジョンの奥から男の悲鳴が聴こえた。


 悲痛。そんな言葉かぴったりな悲鳴だ。


 悲鳴は視線の先の闇の奥から聴こえ、ノアスたちに動揺を作り出した。



「ムゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!」



 悲鳴を上げたのは男だ。


 男の声を呑み込むように暗闇から低い笛に似た音が響き渡る。



「おいっ!」


「うん」



 異常を察したノアスとエリィは顔を見合わせてお互いの意志を疎通させ地面を蹴った。


 悲鳴の勢いが薄れていく。


 それはつまり――考えることを辞める。


 今はまず、その終着点に急がなければならないのだから。

 ノアスたちが近づくにつれて、笛に似た音は徐々に止んで行き、その代わりに人の気配を肌で感じる。



「あ……あああああ……たすけ……てくれ!」



 ノアスとエリィが足を止めると一つの光景がノアスの目に入った。


 それは引きずられたように下半身を失った男が、それでも必死に生きようとこちらに這いずりながら声にならない声で助けを求めている姿。


 しかし男の肌は徐々に灰色の胞子が支配を始めていた。



「――!?」



 その時、ノアスは何かを思い出す――

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