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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
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相棒?

 今日はやけに疲れた。潜った階層はいつもと同じだけど、いつもより苦戦を強いられた。


 普段と違う点と言えば……そこまで考えてからノアスは頭を横に振るう。



「一体何だったんだ、あの仮面」



 掴み所のない奴だった。過去を振り返ってもあんな掴み所の無い奴は知る限り一人いるか、いないかだ。


 ノアスは涼しい風を肌で感じつつモヤモヤする気持ちをリセットする為に酒屋に行く事にした。あまり酒屋に行かないノアスにとって行きつけの店など存在しない。無論、知り合いもいないので相談する相手も一緒に行く相手もノアスには存在しない。


 酒屋と言えば、モグラたちの住処と言われるほどダンジョンに潜っている者が溜まる場で有名である。


 一日、一日命を賭けて向かうダンジョン。その覚悟は中途半端では決して合ってはならない。なのでモグラたちは他の誰よりも命の有難みを感じている。その為生きて帰って来れた日にはどんちゃん騒ぎが行われるのだ。


 ノアスも同じダンジョンを潜るモグラとして何度か酔っぱらいに連れていかれそうになったが、その都度上手く回避して来た。


 だからノアスは酒屋があまり好きではない。けれど今日はどことなく酒を飲みたい気分だったので、テキトーに人気の無さそうな店を選んでノアスは店内に入る事に。



「……」



 人が少ない酒屋を選んで入ったから何も言うことは無いのだが、ノアスの想像以上に室内には人が居ない。まさにもぬけの殻。ノアス以外にいるのは従業員ぐらいだ。


 呆然としていたノアスは半ば連れていかれるように奥の席に座り、店のおすすめを頼む流れに乗せられる。


 何だか落ち着かない感じだが、入ったからには飲むしかない。ノアスはゴクゴクゴクと胃に落としていく。


 心地いい感覚が血液を巡って身体全体に行き届く。店に入って二時間ぐらいが経つだろうか。外からはうっすらと虫の鳴き声が聞こえて夜更けを感じる。




「そろそろ行くか」


「み~つけた!」


「――っぶ!?!?」



 グラスを一気に上に上げて中の飲み物を流し込む最中、天井から何かが降って来た。



「よっと」それはここ二日で何度も見かけた仮面を付けた女。女は勢いよく降って来てノアスの隣に華麗に着地する。「やっと見つけた!」



「ゴホッゴホッ――」衝撃の展開に飲み物が変な所に入ってしまい、ノアスの咳が止まらない。

「あ、え、えっと。大丈夫ですか? すいません。お水ください」



 突如現れた仮面の女に戸惑う店の従業員。女が水を要求してから数秒後に提示された物がノアスの席に運ばれる。


 ノアスはゴクリと一気に飲み込んで何とか落ち着く。



「すいませんでした。少し派手な登場をしてしまって」



 女はペコリと頭を下げてノアスに謝る。



「お、お前、何でここに!?」



 ノアスは冷静さを取り繕うとするが内心は動揺一色だ。何しろ突然人が降って来てしかもそれが今朝の仮面女なのだから。



「はい。あなたを探すために匂いと声とかで探していたんですよ。それでやっと見つけたので、来たのです」



 ノアスは天井に視線を移す。「匂い……」


 ゾワッと鳥肌が背筋を駆け、気持ち悪いというか、恐怖が心を撫でた。



「てか、完全に室内なんだけど、どうやって来た」


「まあそこは良いじゃないですか。正面から行ったらまた逃げられちゃうと思ったので上から来てみました」


「あっそ。じゃあ俺は帰るから」ノアスは女に冷たい言葉を投げて立ち上がる。「ん?」立ち上がったノアスの服を女は掴み止めた。


「あの、あまりこういったお店とか来ないですね、あなた」


「は? ま、まあ来ないけど」


「なんでここだけ人が少ないか知ってます?」女は手で『顔を近づけて』とサインを送る。



 ノアスは顔を渋めながらそれに従う。



「ここぼったくりで有名なんですよ」


「……は?」



 ノアスはより顔を渋め、女の顔を凝視する。



「あなたが飲んでいるそのお酒。通常のお酒の十倍ぐらいしますよ」


「!?」



 ノアスは空のグラスを乱暴に掴んで舐めまわすように見る。それから戸惑いの瞳で店内の従業員たちに視線を送るが、従業員たちも華麗な動きでノアスの視線を避けた。


「ね」


「嘘だろ」ノアスは持ち金を確認してから絶望に顔を染める。


「もっときちんと調べてからお店を選ぶべきですよ」


 女は、はぁ~と頬杖をついたまま深いため息を漏らす。



「どうしたらいい?」



 酔いのせいもあり正常な判断が出来ていないノアスは何故だか女に助け舟を要求してしまった。



「良いでしょう。わたしが助けてあげます」女は手を優しく叩いてからにっこりと太陽のように笑った。



 まるで女神のような寛大さをアピールするように両手を広げながら。



「でも、約束してください。明日、わたしと一緒にダンジョンを潜ると」


「は?」


「別に良いんですよ。ここであなたがお皿洗いをすることになっても。どうしますか。お皿洗いをするか、わたしとダンジョンに潜るか」


「ぐぬぬ……分かった。それでいい」



 ノアスは言葉にならない言葉を歯と歯の隙間から漏らし、苦虫を噛み潰したような顔で女の要件を飲み込んだ。


 ノアスにとって残された時間は半年。一秒も無駄にできない中、皿洗い何てごめんだ。それだったらダンジョンに潜った方がノアスにとってメリットはある。



「では」



 女はお金を持ってノアスの飲み代を支払い、ノアスと共に酒屋を後にした。



「……助かった。じゃあな」



 店を出ると生暖かい風が二人の間を通り抜ける。辺りの酒屋ではモグラたちの宴が聞こえ、まるでノアスたち二人だけが、世界に置いて行かれてしまったかのように静かだった。


 ぼそぼそと風に乗って消えてしまいそうな小声でノアスは前にいる女に礼を言う。



「あ、ちょっと待って」去ろうとするノアスの背中を女は杖で突く。



「あなたは本当にせっかちですね。まだ話は終わってません」


「飲み代の事は感謝してる。けど、俺はお前に話すことは無い。明日潜るんだろ、テキトーにダンジョンの入り口にいるからよ、じゃあ」


「だ・か・ら!」女はノアスの前に移動して通せんぼうのポーズで頬をプクゥーと膨らませた。「まず初めにわたしは『おまえ』じゃなくて『エリィ』って名前があります。わかりましたか?」



 エリィの言葉には覇気があり、思わず後ろに引き下がってしまう。



「ああ、わかった。じゃあな」


「まだ終わってません。一日とはいえ、明日からパーティーを組むんです。もう少しだけあなたの事が知りたいです」そう言ったエリィは一歩ノアスに近づいて両手でノアスの頬を撫でる。「ちょ――」



 エリィは感触を楽しむように手を動かして、ノアスの耳元に手を伸ばした。



「……やめろっ!」



 ノアスは勢いよくエリィの手を払った。



「あ、え、すいません」


「なにしやがる!」


「いやちょっと。あなたがエルフなのか気になりまして」



 エリィの言葉にノアスは奥歯を噛みしめる。



「チッ。エルフだったらなんだよッ!! 俺を見下す気かッ!」


「い、いえ、そんなつもりは。ただ朝お会いした時にエレメンタルの力を感じたので」


「そもそも見ればわかるだろ。この尖った耳を見れば、俺がエルフだって!!!」



 ノアスにとってエルフかどうかを確かめる行為はとても腹立たしい行為である。勝手にエルフと知る分には何とも思わないが、エリィが行った行為……特に耳に関して調べられることをノアスは嫌っている。



「ご、ごめんなさい。そんなつもりは無かったんです。ただ、わたし……わたしは目が不自由なので外の世界を知らないのです。だから触って確かめることしか出来なくて。不快な思いをさせてしまったのなら謝ります。本当にごめんなさい!」



 慌てふためいたエリィは仮面の下の顔をキュッと引き締めて、頭を深く下げ心の底からノアスに謝罪した。


 心の底から後悔している。そんな気持ちが生暖かい空気を伝ってノアスの脳に届く。



「別にいい」薄々勘付いていたが、やはりエリィは目が見えていなかったのだ。カッとなって言ってしまったとはいえ、ノアスも同じような事をしてしまっタ。



「俺も悪かった」


「いえいえ、とんでも無いです」


「ゴホン。で、何を知りたいんだよ」


「そうですね。とりあえずはお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」


「いいぜ。俺の名前はノアス」


「わたしはエリィです。よろしくお願いします、ノアス君」


「……おう」



 ノアスはぎこちない動作で差し出されたエリィの手に一瞬だけ触れた。



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