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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
4/55

出会い

 ノアスの心境とは裏腹に天気は今日も良い。闇を払うように輝かしく街を照らす太陽。そんな太陽を睨むように顔を上げるが、やはりノアスの闇は残ったままだ。


 太陽の輝きにピッタリな賑やかな街道には無数の人が行き来している。時刻が昼時だからか、いつもより人は多い。そんな賑やかな街の雰囲気はまさに平和そのもので、それを壊すようにノアスは真っ直ぐ歩く。


 金銭をあまり持たないノアスは当然最低限の服しか持っていない。なので昨日ダンジョンで浴びた返り血によって染まった赤色の布を羽織って歩いているのだが、それによって賑やかにキャッチボールされていた会話は、一気にノアスを批判するモノとなる。


 ノアスもこうなる事は分かっており、裏道を使うか悩んだが昨日の事が頭をよぎり仕方なく大通りを利用したのだ。


 流石のノアスも若干の罪悪感を覚えつつ、ノアスを避けるように開かれた道をスタスタと出来るだけ速足で進んでいく。


 地面を見ながら歩く。批判の視線を直視しても良いことなんてないからだ。


 ざわざわ囁かれる音とは別に、何かを一定のリズムで叩く音がうっすらと地面を伝って聴こえて来た。けれどノアスは視線を地面から外さない。孤独なノアスには関係ない事に決まっているから。


 しかしその音はノアスが歩くたびに少しずつ大きくなって行く。それと同時に周りの声も落ち着きのないものへと変化を遂げていく。


 ――ドンッ。


 何かがノアスの胸にぶつかった。その衝撃に並行して周りの人たちの声音が戸惑いの色へと変化したことを悟る。



「あ……ぶつかってしまいましたね。すいません」


「――あ」胸にぶつかったモノを確かめる為に視線を合わせたノアスは言葉を失った。



 長い一秒が経過してからやっとノアスは、喉を震わせることが出来た「仮面女!?」


 直後ノアスは自分が放った言葉に後悔する。目の前の仮面女は間違いなく昨日路地裏で見かけた奴だ。その時と同じで顔には舞踏会で着用する仮面を付けている為、表情は伺えないが今のノアスの発言で勘付かれる可能性を生んでしまったから。


 仮面女が勘付いたのなら、昨日取った行動が台無しになってしまう。


 ノアスは一歩後ろに下がって、無言で仮面女の横を通り過ぎようとした。



「私の事を知っているのですか?」女はノアスが通り過ぎた事に気づいていないのか、左右に顔を動かして探すように言った。そして、「血の臭い……もしかして昨日、路地裏にいた方ですか?」



 ビクッと背中に嫌な汗を掻き、横目で女を確認する。女は手に持つ杖をコンと地面を叩いてゆっくりと振り返った。


 多分だけど……あいつは目が見えていない。


 杖や仮面そしてノアスが通り過ぎたことに気づかなかったことから推測し、



「あ、ちょっと――」



 関わる事を拒絶するノアスが取った行動は一つ――女から逃げる事だ。


 ノアスは風で舞った血の染み込んだ布を泳がせながら、人混みを無理やりに走り抜けていく。



「待って。まだお礼が」



 女はノアスが走り去った方角に身体を向け、長い髪を耳にかけてから鼻を犬のように動かした「あちらですね」


 女は笑顔でそう呟く。



 はぁはぁはぁはぁ。


 ノアスは十五分程走って街の外れに来た。壁に背を預け、大きく息を吸って呼吸を整える。



「なんなんだ、あいつ」



 何でこんな状況になってしまったのか。もっと良い方法があったのではないか、ノアスは先程のシーンを頭に浮かべながら小さな反省会を開いている。



「考えてみたら別に逃げる必要なかったな」



 あの一件からノアスは誰とも関わりを持たなくなった。それは自分が科した罪を忘れない為と、同じ悲しみを背負いたくないという思いがあったからだ。


 その結果、言葉を交わすことで何かしらの関係が築かれてしまう。そしてそれは自分を苦しめるモノになってしまうのではないか、と無意識の内に極端な考えに至ったからだ。


 もう少し早い段階で気付いていればこんな走る結果にはならなかっただろう。



「まあいいか。結果的に何も起きなかったし。行くか、ダンジョ――」


「み~つけた!」


「っぶ!?!?」



 突如ノアスの頭上に影がかかり、まばたきの一瞬で先ほどまで何も居なかったはずなのに、次の瞬間にはノアスの前に一人の人間が立っていた。


 脳の処理が追いつかないその一瞬の景色変化に思わずノアスは唾を飛ばしてしまう。



「ちょっと。何ですか、この液体」ノアスの目の前に現れたのは仮面の女だった。女はノアスが飛ばした唾を拭きながら口を紡ぐ。「やっと見つけました。あなたですよね? 昨日、わたしを助けてくれた方は?」


「し、知らない」



 女から顔を逸らすが、苦し紛れだ。



「嘘ですね。だって昨日路地裏で臭った血の臭いと同じですもん。何で嘘をつくんですか」



 女は腰に手を当てて前のめりに覗くように顔を突き出した。



「別に嘘はついていない」ノアスは吸われるように壁に体重をかける。「俺は何もしていない!」


「そんな事ないですよ。あなたが気を引いてくれたから何とか、王子様たちを倒せましたし」


「王子様?」


「ええ、多分わたしを囲んでいたのは二人の男性ですよね? 彼らが王子様と言っていたので王子様と呼びました」


「は、はぁ……」



 なんだこのやばい奴。


 ノアスは直感で目の前の女が一般的価値観からズレてる奴だと確信する。



「ああ、そうか。まあお前が何と言おうと俺には関係ないから。じゃあ」



 ノアスは早口で言葉を吐いて避けるように歩き出す。関係を築きたくないノアスにとって長く空間を共有すること自体がデメリットであった為、ノアスは早々に退場することを選んだのだ。



「ちょっと、待ってください」愛用しているのか、時間の経過を感じさせる少し古めの杖でノアスの肩を女は突く。「先ほどダンジョンにとか何とか言いかけてしましたよね? という事はあなたもモグラですか? でしたらこれも何かの縁です。一緒に潜り――」


「雷よ、我に力を――雷心」



 ノアスは背を向けたまま小さく唱える。すると、ノアスの右手からバチバチバチと空気を震わせる黄色の糸が無数に発生した。それはみるみるうちにノアスを包んでいく。そしてノアスが小さく地面を蹴った瞬間。


「――!?」まさに一瞬の出来事だった。地面を蹴ったと思ったら既にノアスはその場から消えていたのだ。まさに雷が落雷するように一瞬で。



「雷のエレメンタル?」



 女は驚きの表情を浮かべながら、そう呟いた。


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